猫額洞の日々

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2015年 03月 02日

徳川夢声「夢声戦争日記 抄_敗戦の記_」半分強

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~3月1日より続く

 昭和20(1945)年5月2日<(水曜 雨 冷)>では、ラジオでニュースを
聞く。
<奥の間のラジオはダメになったから、寝室の方のを聞くより仕方がない。
 さて、そこには床が二組並べて敷いてある。それが今日は上げてるヒマが
 ない。
  妻も専らこのごろでは、ラジオのニュースを気にするようになってるので、
 彼女もあとからやってきて黙って床にもぐる。
  [略]かねて斯くあるべしと、おぼろ気ながら思っていたが、さて現実に
 その言葉を聞くと、やっぱり衝動を感ずる。
  =ヒットラー総統死す!
  これは寝たまま聞くべき放送ではない。とは思ったが起きる気力もない。
 妻も寝たままで大きな溜息をつき、
  「可哀そうに!」
  と極く小さな声で言った。
  詳しいことは放送されないが、多分自殺であろうと、私たちは語り合った。>
(p62)

 同盟国のトップの死の知らせを聞いて、寝床で聞いてては失礼だと思う感受性。
 __身分の上下を意識した感受性は戦後かなり失われたが、他人(ひと)の死を
悼み、それにふさわしい形で受けとめるべきとする感受性も、もはや失われている
のか?
 接骨院の治療台に横たわりマッサージを受けて気持よくなりながら、「殺された
男の子がかわいそうねえ!」と、自分が、子どもの死を軽々しくネタにしているだけ
だというグロテスクな状況に気がつかず、自らの心優しさ(!)を無意識に肯定して
自己愛で気分よくなってる、戦中に子どもだった、あるいは戦後生まれの中高年女
の無神経さを指摘しようにも、彼女たちには通じない。女の自己欺瞞や無意識の
虚偽という皮下脂肪にくるまれているから。

 夢声は、直感的に自殺だと思う本能的理解力がありながら、5月4日<(金曜 晴)>
になると、
< ヒットラー総統は、去る一日午後、武器を手に官邸の階段を下りるところを、
 敵弾に射たれて死んだと、ハンブルグ放送局から発表されたとある。これ以上
 劇的な最期はあるまい。
  自殺でなかったことは何よりである。自殺では今まで彼の言った勇ましい言葉が
 嘘になる。
 [中略]
  ムッソリーニ氏は、妾とともに捕えられ、銃殺されて曝しものになった、というが
 これは英米側の報道であるから疑わしい。メカケ云々はどうだか?
  いずれにせよ、脳溢血で死ぬより勇ましい。>(p64)

 ひとは物語的合理性に惹かれる。かくあれかしと無意識に願った通りの言葉を
聞かされると、そっちを信じる。直感では自殺と分かっていたのに、名誉ある死
という願望を先行させる。
 "英米側の報道"にはプロパガンダを疑いながら、同盟国サイドの報道は信じて
しまう。放送局にはなじみの深い夢声なのに見抜けないのが、今の目からみれば
不思議だ。
 ひとは信じたいものを信じる、ということか。

     (徳川夢声「夢声戦争日記 抄_敗戦の記_」 中公文庫BIBLIO20世紀
     2001初 帯 J)

 先に"身分の上下意識"はかなり失われた、と書いたけれど、空港でウィリアム王子を
見た(人ごみの中でちらっと見かけたとしても、"尊顔を拝見した"と書くべきなのか?)
日本女性に感想を聞くと、うっとりした表情で、
 「すてきな方でした」と答える映像をTVニュースで見た。王子(次の次の英国国王)
という身分を外して彼を見ると、たんに穏やかそうな(たぶん、いいひとであろうと
感じさせる)イギリス人だが、彼女にとっては王子という付加価値抜きに彼を見ること
はできないだろう。身分の違いや階級意識は、こんな場面で残っている。

 ブランド価値ねえ...。イギリス王室がそのブランド価値で、英国の経済やイメージ
戦略に貢献してるからって、日本の皇室に同じ活動を求めるのは間違いだ。天皇制
という権力の中空性が、軍事政権に便利に使われる伝統(徳川幕府にしてから、そう
である)が軍部の暴走を加速したので、戦後の政経分離は厳格さを求められたのだ。
 それを思い出すことなく(意図的あるいは自己欺瞞的に忘れ去り)、イギリス王室の
英国への貢献を取り上げるTVニュースの姿勢は、天皇の政治利用を図る、石原慎太郎
や安倍晋三・種族に媚びている。
 TVをつけっぱなしにしている人々は、この手のプロパガンダを無批判に受け入れて
しまうことが多い。TV中毒だ。
 TV中毒者はたとえば、イスラエル建国事情を考えたことなど一度もなく、パレスティナ
="テロリスト"図式を受け入れる。それは英米(圧倒的にイギリスが悪い)とイスラエル
のプロパガンダ、とは思いもつかない。





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by byogakudo | 2015-03-02 16:34 | 読書ノート | Comments(0)


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