猫額洞の日々

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2015年 03月 03日

徳川夢声「夢声戦争日記 抄_敗戦の記_」読了

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~3月2日より続く

 日本の敗戦は男にとってはアイデンティティを喪失させる、衝撃的恥辱
だったが、女にとっては解放そのものだった、という感想だ。

 敗戦の衝撃から立ち直ろうと、知的で自意識ある近代の男、徳川夢声は
観察し、考察する。

 8月29日<(水曜 晴 大暑)>、夢声は東宝撮影所の所長室で社長他の
エリート5名に会う。
< 右五人とも、紐育(ニューヨーク)に連れて行っても、倫敦(ロンドン)を
 歩かせても恥かしくない。マッカーサー部隊の将兵に見せたいくらいな
 もの、斯ういうことは最近珍しい現象である。
  電車に乗っても、街を歩いても、この頃の日本人の顔は、実に情けなくなる。
 チンパンジーとそっくりの爺だとか、虫みたいな顔をした産業戦士とか、ボラ
 みたいな女房とか、どう見ても戦争に勝つ国の顔でないのが充満している。
 まさに劣等民族であるという気がしてならないのである。
  それが、今日所長室にいる間は、一流民族であるという自信をとり戻した
 のである。>(p333)

 明治維新以来の欧米に追いつけ・追い越せ思想が、どれだけ個人にしみこんで
いるかの実例みたような文章だ。
 わたしは国家や民族という観念にあまり興味がないし、"勝つこと"に無関心だ。
"勝つこと"は負けることに比べて、下品で避けるべき行ないだとも思っているが、
オスはどんな時代でも、勝ち負けをはっきりさせ、ヒエラルキーを作らずには存在
できない生物であり、オスが群社会を仕切る歴史が長かったので、負けることが
優雅な行為であるという思想には共鳴しないだろう。

 8月28日<(火曜 晴 烈風)>で夢声は、年齢差・性差による敗戦の受けとめ方
の違いを考えている。
 マッカーサー部隊第一陣の露払い的に、米軍機が都内を<監視と示威をかねて>
飛び回っている。もう爆弾を落とさない飛行機ををもっとよく見ようとして、娘たちが
派手な笑い声を立てながら双眼鏡を奪い合うので注意したのだが、

<この笑い声を聴いた時、少し厭な気もちがした。何故彼女たちは、嬉しそうなので
 あるか、考えて見た。
  A [概略]戦争終結で憂いが払われた。
  B [概略]戦争についてよく分かっていなかった。
  C [概略]だから敵愾心も根強くなかった。
  D [概略]8・15以来、新聞などの論調が進駐軍を大切に迎えよ、となった。
  [中略] 
  E 娘らしい単純さで、アメリカの大型飛行機を、憧れ迎える、ということ。>
(p330~331)

 男で老人である父・夢声にしても、この日のB29には好奇心を抱いて双眼鏡で
何度も覗いていたが、ここから男性と女性の違いが出てくる。
< 卒直に言うと、娘たちは意識するとしないとに拘らず、B29を透して、戦勝国
 アメリカの男性に憧れているのである。
 [中略]
 それが女性たるものの、もって生れた生物本来のありかたであって見れば仕方
 がない。>(p331)

 女の英雄崇拝熱とは、より優れた遺伝子を持つ(と感じられる)男に惹かれる
自然の本能である、という正しい認識だ。こんなに冷静に見られるのに、一流
民族だ、劣等民族だという欧米コンプレックスからは自由でなかった。
 女であるわたしが断固として(?)勝ちたがらないのも、逆に言えば、守られて
生きてきたから、失うに足る何かを与えられていたから失いたがる、と言えるか。

     (徳川夢声「夢声戦争日記 抄_敗戦の記_」 中公文庫BIBLIO20世紀
     2001初 帯 J)     





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by byogakudo | 2015-03-03 19:05 | 読書ノート | Comments(0)


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