2015年 03月 19日

風俗としぐさの移り変わり__高見順「敗戦日記」より

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 前に高見順「敗戦日記」を引用したときに、差し挟むきっかけが掴めず
放っておいた箇所を引用したい。敗戦間もない、9月12日、川端康成と
ともに、志賀直哉を訪ねたときの記述である。

<今日は二人とも洋服(註=背広?)である。二人とも国民学校の生徒の
 使うズックのカバンを下げている。川端さんは国民学校の生徒のように、
 ちゃんと右肩にかけ、紐を斜めに走らせてカバンを左に、__私は不良
 学生のように左肩に下げている。川端さんのカバンの紐は、カバンのわき
 の太さと同じ太さだった。私のは漢口で買ったもので、紐が細く、もう
 よれよれになっていた。>
(p352/高見順「敗戦日記」 中公文庫 2005初 J)

 そういえば中学生のころ、男の子はズックのカバンを斜めがけしていたが、
ショールダーバッグ式のかばんの紐を、斜めにかけるのが真面目な子どもで、
どちらか片方の肩にかけて吊るすのが不良という感覚がよく分からなくて。
 誰しもそう感じていたのかしら? それとも高見順の個人的な感じ方なのか。
男の使うかばん類と、女持ちのかばん類では、持ち方が違うから?

 わたしは幼いころを除いて、ほぼ"洋服"しか着てこなかったから、着物の
帯辺りで風呂敷包みを抱きかかえたり、あるいは下げて歩いたことはないが、
様子を思い浮かべることはできる。

 着物(和服)と"洋服"とでは、しぐさが違ってくる。ランドセルを背負った
子どもの目から見た大人の女性は、"洋服"のときは、肘を曲げてハンドバッグ
を腕にかけて歩く。普段着で、ちょっとそこまで何か買いに行くときは買物籠を、
これは最初はハンドバッグと同じ持ち方もするが、帰りは重くなっているので
籠を下げて歩く。
 着物のときは、和風の細い紐のついたハンドバッグは手首を曲げ、身体の
近く(帯の辺り)に持って歩く。下げたときは、あまり身体から離れてぶらぶら
しないよう、注意する。抱え式のバッグは手で掴み、胸元近くに手を上げ、
あるいは掴んだ手を下げて歩く。風呂敷包みは、上記の通りだ。

 風呂敷包みで、別のことを思い出す。店の棚に長く入ったまま、結局売れな
かった「ヘンゼルとグレーテル」の絵本で、翻案者名も絵の作者も記されてない
ような絵本だったが、魔女の家から宝物の入った函を抱えて、ヘンゼルとグレー
テルが逃げてくる場面、ヘンゼルが函を持って走るのだが、その抱え方が盗っ人
が千両箱でも抱えて逃げてくるようで、見る度に吹き出していた。絵描きがあまり、
"洋服"着用時の動きやしぐさを意識しなかったから、あんな絵柄になったのだろう。
 お客さまにも「おかしいですよ」と勧めたことがあったけれど、同好の士はついに
現れなかった。

 小学校のランドセルの次は、中学生の革の下げ鞄だ。これは男女差なく、ただ
ぶら下げて歩くが、オフ(?)に違いが出る。

 1960年代、もしかしたら64年のオリンピック辺りからだろうか、スチュワーデス
(現フライト・アテンダント)以外の大人の女性が、ショールダーバッグを肩から
下げて歩くようになった、わたしの記憶では。
 それに連れて女子中学生も、学校以外に出かけるときはハンドバッグではなく、
ショールダーバッグを愛用するようになり、20歳も過ぎて気がつくと、ハンド
バッグの持ち方がうまくできなくなっていた!
 ある日、ハンドバッグを肘にかけてみたら、手首から先をどうすればいいのか
見当がつかない。手首を軽く身体の側に曲げればいいのだろうが、どうも身に
そぐわないしぐさになる。かといって、紐をぶらぶらさせてハンドバッグを下げて
歩けば、娼婦っぽくなる。「女と男のいる舗道」のアンナ・カリーナの立ち姿のように。

 但し、ここまでのショールダーバッグのかけ方は、片側かけである。紐を斜めに
かけるようになったのは、いつ頃からだろう? 1980年以降?
 ひったくりに遭いやすいからと、ショールダーバッグの斜めがけを勧めるキャン
ペーンがあったような気もするし、たんに片っ方だけに負担をかけない、かけ方
として、斜めがけが流通するようになったとも思える。
 デイパックも一時、流行りかけたが、大勢は占めなかったようだ。古本愛好家
には愛用されるが。

 世代で違うし仕事柄でも異なるだろうが、女性のパンツルックとスカートとは、
どちらが多いのかしら? 小学生や老女は動きやすさを優先してパンツルック、
若い女性のお出かけ用がスカート、だろうか?
 風俗と意識は切り離せないものだから、誰か記録を取っておいてくれないか。
戦後すぐ、物資が出回るようになったら、布地をたくさん使うサーキュラー・
スカートが流行った。もう、モンペ着用が強制されない喜びや嬉しさを、着る
もので主張したのだ。
 パンツルックはモンペ回帰ではなく、女性らしさとスカートが等号で結ばれる
ことへの反抗表明である。今は女性は、どんな服装でもかまわない。仕事上では
制約があるが、それは男女同じことだ。





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by byogakudo | 2015-03-19 17:42 | 雑録 | Comments(0)


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