2015年 05月 13日

三國一朗「鋏と糊」読了

e0030187_176320.jpg












 男のアリバイは観念で、女のアリバイは生活なのよ。__思いついた
フレーズをメモ用紙代わりにここに書いておいただけだが、この写真の
キャプションみたようになってしまった。伊呂波文庫さんと三島由紀夫
の自死について喋っていたときに、派生した言葉。


~5月12日より続く 

 文庫本のあとがきで、この本の成立ちが語られる。TVで実演した
「新聞の切りぬき方」を見た「みゆき書房」の本川恒夫が本にしよう
と言って、すぐに出してくれたのがオリジナルの「ハサミとのり(私の
きりぬき帖)」(1970初)。初版のみで品切れが続いていたが、増補改訂
(約30ページ分の新稿)して、写真も挿入しようと自由現代社から出さ
れたのが「鋏と糊」(1981初)。
 そして、ハヤカワ文庫NF版「鋏と糊」(1987初)に至るが、ここでは
前二書にあった、市川崑演出の映画「東京オリンピック」に関する項
が冒頭部分のみの収録である。三國一朗はナレーターとしてこの映画に
関わっていたが、作品はお蔵入りにされた。怒りが、新聞や雑誌の関連
記事のスクラップ・ブック作りに拍車をかけた。

 映画「東京オリンピック」騒動については少し覚えている。子ども心の
理解を今の思考に翻訳すれば、アートが分からない政治屋がごちゃごちゃ、
イチャモンをつけたできごとだった。記録映画の会社に任せておけば"分かり
やすい"映画ができていたかもしれないが、あの頃のことだから、有名監督に
頼まないと国家的プロジェクトと言いがたく、国威発揚にならないとでも
考えたのではないか。
 東京オリンピックは近代日本のきしみの一例だ。まだ、あれを繰り返し
たがっているのが分からない。

 余談だが、"アート"という言葉も今の日本では使いづらい言葉に成り果て、
困っている。"芸術"というのも困るし、なんて言えばいいのだろう?

 そうだ、ソ連のフルシチョフ首相の抽象画批判も、市川崑の「東京オリン
ピック」映画と同じ頃か、近い時期ではなかったかしら? 右も左も"具体的
な事実"が存在すると信じていた。
 "ノンフィクション"とは矛盾した言葉で、ひとこと、そんなものはあり
得ない、書かれた言葉、表現された行為はすべてフィクションだというだけ
だが、ケータイ小説(まだあるだろうか?)の感想だったか、「実話に基づいた
話なので感動できた」というのを読んで、のけぞった。そんなひよわなアタマで、
どうやって"現実"世界を生き延びるのか。

 世界を手中に収める、少なくとも可視化したいという欲望が、フィクショナルな
行為を呼ぶ。ゲームであり、モノのコレクションであり、"仕事"であり、"戦争"
であり...男のアリバイはともすれば物騒になりかねない。スクラップ・ブック作り
なぞ、穏やかなものだ。
 また余談。神がヒトを創る際、単為生殖するメスだけにしておいたら、地上は
平和が続くだろうが、文化は発生しなかっただろう。

 それはともかく、男の世界征服妄想のひとつ、スクラップ・ブック作りの観念的
展開と具体的ノウ・ハウの陳述、どちらも面白かった。

 台紙の限られた紙面の中に、新聞連載記事を一回の脱落もなく、きれいに
レイアウト、いや再レイアウトする作業をしながら、
< そんな夜のあるとき、私はふと、「人生はレイアウトだわい」と思ったもの
 でした。
 [略]
  私は自分の眼の前にある未整理の「大物」記事の何枚かが、自分をとりまく
 広大な世界に、一冊のスクラップ・ブックが私という人間の生活そのものの
 ように見えてきたのです。>(p226)

 制作上の知恵の一例だが、
<折り目のあるスクラップの処置です。切りとった小紙片の中に折り目がある
 ときは、あらかじめ折り目を逆に折りかえして「くせ」をやわらげておき、
 貼る段になって、折り目のウラにあたるところに、折り目にそって少しのりを
 つけておくと、貼って乾いてからピンとなります。>(p123)
こういう細かい作業ポイントを読むのが、とても楽しい。

     (三國一朗「鋏と糊」 ハヤカワ文庫NF 1987初 J)





..... Ads by Excite ........
 
[PR]

by byogakudo | 2015-05-13 20:31 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2015-05-14 22:07
新聞を切り抜く方法に感心してやってみました。
うまく行きましたが、それも面倒で適当に破くようになり、今はほとんど切り抜かなくなりました。
面白かったことは覚えています。
Commented by byogakudo at 2015-05-14 22:42
とても具体的で詳しく書かれているのですが、
スクラップ・ブック制作に必要なのはしつこさ
だと思います。何冊か作ったあげく、引越しの
とき、すべて捨てました。


<< cui bono?(to wh...      三國一朗「鋏と糊」を読み始める >>