2015年 05月 29日
それぞれタッチのちがう観念的な短篇小説やエッセイ集。大島渚 「白昼の通り魔」の原作が武田泰淳だって、初めて知った。ほんと に何も知らないで古本屋をやっていたもので...。 収められた『女の部屋』や『白昼の通り魔』を読んでいると、大昔に 読んだきりでかすかにしか覚えていないのだが、坂口安吾「青鬼の褌を 洗う女」だったかのヒロインを思い出した。あれもたしか、大地母神と いうか、たくましくて土着的なタフさに満ちた描かれ方だったと思うの だが(もし勘違いだったら安吾の件は外してください)、近代の男は 土着性にヨワいのだか、マザコンだからなのか、ときどき、大地にどっしり 腰を据えた、皮膚の厚い、丈夫そうなヒロインを描く傾向があるのでは ないかと、近代文学痴が怖れる気配もなく言ってしまうのだが、いかが でしょうか。 観念性の毒にヤラれかけている近代の男を救うのが、白馬の騎士ならぬ、 大地母神。女はどんなに外見が楚々としていても、大体、男よりも丈夫に できているから、すがりたくもなるだろうし、観念の対極にある存在として、 野生の力をもつ大地母神的女を想定するのは、小説の結構として理解できる のだけれど、女も同じように近代を過ごしてしまうと、大地母神・設定に至る 男の作家のロマンティシズムやセンティメンタリズム(とまで言ってしまって いいのか、やや疑問だが)の暢気さが気にかかる。 表題作『ニセ札つかいの手記』は、東京オリンピック直前の一大普請中の 東京を舞台に(聖徳太子の千円札)偽札事件を取り入れ、本物・ニセモノ論を 展開させて、パワフルだ。登場人物の口を借りて、三島の短篇「月」批判まで 入っていた。あれは別に<意味くっつける>なんてしてない、抒情短篇だった と記憶しているけれど。 (武田泰淳「ニセ札つかいの手記 武田泰淳異色短篇集」 中公文庫 2012初 J)
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by byogakudo
| 2015-05-29 20:10
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