2015年 06月 13日

鹿島茂「セーラー服とエッフェル塔」読了

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 ふだん見過ごされるような小さなことでも気になってくると、それは謎と
呼ばれる。解明されないと落ち着かない。謎解きは仮説を立てることから
始まり、様々な資料(本)に当たり、検討され、着地点を見出す。
 そういう仮説と検証のプロセスを綴ったエッセイ集であり、本は本から
作られることが明らかになる。

 丹生谷貴志氏のツイッター、2015年2月27日(https://twitter.com/
cbfn/status/571496974232367105)に、
<ルイ十四世は「物語本」が送られて来るとまず要約と書評を作らせ、あとは
 眠れない夜に朗読者に所々を読ませた・・・彼は黙読を耐えることがなかった。
 一方 朗読者を持たない宮殿の女たちは夜、本の黙読という新たな経験を発明
 してゆく。「物語本」が「小説」に変体してゆく重要な兆候・・・という指摘。>

とあったが、この音読と黙読に関するエッセイも、鹿島茂は書いている。
 題して、『黙読とポルノ』。

<盲目のボルヘスの本読み係をしていた[中略]アルベルト・マングェルの
 語る聖アウグスティヌスの次のようなエピソード>(p187)が紹介される。

<カルタゴから四世紀の後半にミラノにやってきた聖アウグスティヌスは
 [中略]聖アンブロシウスが黙読をしているのを見て、最初なにをしている
 のかわからず、次におおいに驚いたという。黙ったままページを追うこの
 黙読という読書法は[中略]一般的なものではなく、文字はすべて声を
 出して読むのが普通だったのである。
 [中略]十九世紀でもバルザックやフロベールの時代まで、かなりの人々が
 声を出して読んでいた。もちろん、この時代には黙読する人もいたのだが、
 音読する人がいても奇異ではなかったのである。
 [中略]
  「中世もかなり時代を下るまで、文筆家は、自分が文章を書いている時に
 それを声に出しているのと同じく、読者も、たんにテクストを見るのではなく、
 それを聞くものだと考えていた」>(p187~188)

< 「銘板や巻物、写本に表現された文字の音は、目で知覚され口で発音されて
 はじめて論理的なものとなっていったのであり、ものを考えそれを発話することが
 読書だったのである」>(p188)

< 「書き言葉に対峙した読者は、その黙した文字に声を与え、聖書においては
 厳密な意味の違いを持つ、話し言葉、すなわち精神となるようにする義務が
 あるのだ。アラム語やヘブライ語といった、聖書の内容を記した原初の言葉に
 おいては、読むという行為と話すという行為に区別は与えられていないが、
 これは、同じ言葉で両方を意味するものとして使われていたからである」>
(p189)

<音読が黙読に変わるようになると、[中略]異端の大量発生>が始まる。
<十二世紀頃から黙読時代に入ると[中略]
 黙読では書物と読者との関係が、いわば公的なものからプライベイトな
 ものになり、読者以外の人間がその関係に異議をさしはさめなくなったのだ。
 ここに異端が発生したのである。印刷術の発明はこの傾向に拍車をかけた。
 その行き着いた先がルターやカルヴァンのプロテスタンティズムであることは
 あらためて指摘するまでもない。>(p190)

 以上はマングェルの認識だが、鹿島茂はそこでおさまらない。

<黙読時代になって、なにを読んでいるか傍目にわからなくなると、
 ポルノが生まれる。しかも、黙読はプライベイトな要素を強めるから、
 語る主体よりも描かれた対象との距離がより短くなる。
 [中略]
  私見では、ポルノの発生は十二世紀における宮廷風「恋愛」の発明と
 軌を一にしているから、異端の蔓延とまったく同時期であり、このふたつが
 ともに黙読によってもたらされたものであることは歴然としている。
  異端とポルノ。そしてついでにいえば小説。この三つはいかにも黙読と
 相性がよかったのである。>(p190~191)

     (鹿島茂「セーラー服とエッフェル塔」 文春文庫 2004初 J)


 この件とは関係ないけれど今日、拝見した鈴木創士氏のツイッターから
忘れないうちに引用しておきたい。あんまりうつくしかったので。

<ゼーバルトに逆らって彼の言い方を借りれば、写真があれほど人の
 胸を衝くのは、そこには時間が写っているようで時間の影すら写って
 いないことを誰もがほんの少しの悔恨と共に知っているからである。
 彼岸にあるものも含めて、それは過ぎ去ったかに見えて、消滅と同時に
 何も過ぎ去ってはいないからである>
(https://twitter.com/sosodesumus/status/609614117561892864)





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by byogakudo | 2015-06-13 21:48 | 読書ノート | Comments(0)


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