2015年 06月 16日

エンリーケ・ビラ=マタス/木村榮一 訳「ポータブル文学小史」読了

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 要するに山田風太郎の明治ものの手法で書かれた、西洋モダーン
アート史・文学史と理解した。と、これだけで終わるのもなんなので、
蛇足を少々。

 風太郎の明治ものは、架空の登場人物に、実在の人物のエピソード、
実在の作家や作品を自由自在にブレンドして組み立ててある。あり得る
可能性の組み合わせだから、少年・夏目金之助と幼女・樋口夏子の出会い
も、小説内では易々と起きてしまう。

 エンリーケ・ビラ=マタス/木村榮一 訳「ポータブル文学小史」も
同じ手法だし稗史といえば稗史だが、(ある種の)西洋精神史である。
 後の「バートルビーと仲間たち」で、バートルビー症候群と見なし得る
作家たちを並列につないで20世紀文学を横断したように、「ポータブル
文学小史」では、
<ミニチュアにした自分の全作品のレプリカを詰めたデュシャンの
 箱=トランク>(p12)をシンボルにした、作者が"シャンディ"と命名
した秘密結社の発生と小さな顕現、そして伏流化の過程が綴られる。

<独身で、いかなる代償も求めず、精神錯乱に陥った芸術家が突然
 出現したこと>が秘密結社シャンディを支える柱であり、さらに、
<作品が軽くてトランクに楽に収まること、それに独身者の機械として
 機能する>という条件がある。
 他に望ましい素質は、
<革新の精神、極端なセクシュアリティ、壮大な意図の欠如、疲れを
 知らない遊牧生活、分身のイメージとの緊張に満ちた共存、黒人の
 世界に対する親近感、傲慢な態度をとる技術の錬磨>(p16~17)
等々。

 本から作られた本なので、やっぱり「トリストラム・シャンディ」を
読もうとか、カフカ「家長の悩み」を読んでいないと反省したりする。

 巻末に『シャンディ名鑑』として登場人物表がある。
<ヴァレリー、ポール (Paul Valery) 一八七一_一九四五年。フランスの
 詩人・小説家・評論家。
 ヴァンセット伯爵夫人 (Condesa de Vansept) おそらく架空の人物。>
(p167)と親切だが、動かない潜水艦の中で暮らす
<ムディヴァニ王子 (Serge Mdivani) 一九〇三_三六年。グルジアで生まれ
 パリの社交界でグルジアの王子を自称していた。>(p176)
__このエピソードをどこかで読んだような気がして、それが何だったか。
それとも贋の記憶(déjà vu)なのか。何だったっけ。

     (エンリーケ・ビラ=マタス/木村榮一 訳「ポータブル文学小史」
     平凡社 2011初 帯 J)





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by byogakudo | 2015-06-16 20:47 | 読書ノート | Comments(0)


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