2015年 06月 26日

ロバート・エイクマン/今本渉 訳「奥の部屋」読了

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~6月24日より続く

 初めの2篇『学友』と『髪を束ねて』は女性が主人公、次いで
『待合室』『恍惚』は男性、最後の表題作『奥の部屋』がまた女性。

 主人公の性別で物語のトーンが変わることはないが、女性が主人公
の場合、レズビアニズムの気配が強い。
 「ゲイは男だから分かるよ、でもレズビアンは性的な問題じゃなくて、
政治的な事柄に属すると思う」とはSの言葉だが、それを思い出した。
政治的、すなわち権力の問題である。

 わたしの大雑把な認識では、ホモセクシュアルは互いに、かくありた
かった(あり得たかもしれない)わたし=ナルシシスティックな分身を
認め合い、求め合うことだが("ホモソーシャル"なんて概念を新たに
作り出す必要があるだろうか?)、レズビアニズムは、女性が置かれて
きた社会構造から発生しているのではないかと、Sの考えに同意する。

 社会と歴史(正史)は男が作ってきた。女たちは稗史的存在、男(社会)
に対しては従属的存在、受身の存在とされてきたからこそ、女たちだけの
空間では、イニシアティヴの取り合いが起きる。
 嫁と姑の問題ひとつ取っても事態は明らかだ。誰しも自己決定したいと
望む。それが閉鎖系である家庭内で欲望されたとき、嫁として姑として、
互いに優位性の確認をし合い、諍いが起きる。
 レズビアニズムは、こういった政治力の発現にも拠っているのでは
ないか。(ヘテロセクシュアル側からの読み違いかもしれないが。)

 優劣、強弱を争わないで、互いの差異を認める方向に向かえばいい
のだが、女は本能的に"力"を読み取り、その場で何を求められているか、
どう振舞えば優位に立てるかを察知する能力が高い。
 これは社会的な刷り込みではなく、遺伝的、本能的なものではないか。
つまりマンモス狩りに有能そうな男を一瞬にして見極め、その男を確保
しないと生存できない時代から続く生存本能が、女をしてそう行動させる
のではないかと思うのだけれど。
 レズビアニズムの根底には権力の問題がある、と考える。

 『学友』ではかつての同級生(ヒロインより成績優秀)の出現に伴って、
女主人公は怪異なできごとに遭遇し、しかも同級生との関係は続けるしか
なさそうだ。
 『髪を束ねて』で、婚約者に連れられて行った田園地帯の屋敷に住む
高圧的な女性とも、ヒロインはつき合わざるを得ないだろう、婚約解消
でもしない限り。ヒロインの出会う怪異はまるでアーサー・マッケンの
世界である。

 『待合室』は意外に古風な怪談仕立てだが、主人公の男はすでに死者
の一員みたいに感じさせる。
 『恍惚』では死んだ元絵描きの手記の形で、支配と服従の怪異譚が
語られる。

 『奥の部屋』では、人形(にんぎょう/ひとがた)が元の持ち主である女性
を襲おうとして、これもレズビアニズムを思い出させる面がある。ひとがた
=分身の物語でもあるけれど。

 ふだんは潜んでいる怪異という"図"が階級社会という"地"から、くっきりと
浮かび上がる瞬間が描かれるが、"図"は見た者にしか存在しない。
 "地"は何事もなかったように続いて行き、遭遇者は孤独に孤立して、恐怖を
抱えたまま生き続けることになるだろう、という、イギリスの階級社会をうまく
使った設定で書かれているのだなとは、よけいな感想。

 一年前のMer-de-cureの最中、ロバート・エイクマンの母方の祖父、
リチャード・マーシュの「黄金虫」を読んでいたことに気づくと、妙な
気分になる。

     (ロバート・エイクマン/今本渉 訳「奥の部屋」 魔法の本棚シリーズ
     国書刊行会 1997初 函 帯)    
 





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by byogakudo | 2015-06-26 16:58 | 読書ノート | Comments(0)


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