2015年 08月 22日

広岡敬一「浅草行進曲」読了

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~8月21日より続く

 何が書かれていたのか、ほとんどすっかり忘れていたのが分かった。
 たとえば、『第5章 ストリップ黄金時代』の『3 踊り子とコメディアン
の恋のゆくえ』は、渥美清の話だった。

< ストリップ・ショーのコメディアンから映画やテレビで世間に
 出た[注:浅草は世間じゃなくて、近所合壁の世界なのか?]連中も、
 ほとんどが無名の時代は彼女[注:ストリッパー]たちのお世話に
 なっている。ところが出世[注:!]しても一緒に暮らしている例は
 数えるほどだ。珍しくて、美談になるくらいである。たいてい浅草を
 去るとき、この恩人との仲を清算する。イタチの道切りのようなもの
 で、一方的な自然解消のほうが多い。「もう、住む世界が違うのだから」
 と、彼女は跡(あと)を追わない。男に賭けるのは、浅草の舞台までの
 ことでいいらしい。>

< ロック座にいたストリッパーのY子もその一人だ。入籍までした仲
 なのに、男が浅草から出世[注:じゃあ、浅草は外のない共同体?]
 したとたん縁を切られた。そのAとは百万ドル劇場で知り合った。
 昭和三十年ごろだ。
 [中略]
  赤羽のアパートに所帯を持って、Y子はロック座、彼はフランス座にと
 劇場を移った。
  Aが倒れたのはそれから間もなく、以前から胸を患(わずら)っていた
 というが、療養所に一年。その費用と、彼の母を引き取った生活を支えて
 Y子は懸命に働いた。
 [中略]
  「Aのおにいさんは二枚目じゃないけど、絶対に個性で売り出す人よ」
  彼の出世を信じて、仲間たちの眼には苦労がむしろ楽しそうに見えた
 という。
 [中略]
  ようやく浅草に戻ったAは、間もなく仲間とトリオを組んでテレビの
 レギュラー。そして日劇の大舞台から映画の主演。[中略]
  ところがテレビに出るようになったあたりから、Aは彼女の部屋に
 ほとんど帰らなくなる。おなじ浅草のストリッパーに横取りされた。
 そのK子はY子より若くて美人だった。
  「生活に疲れ切って見る影もなかったし、K子は強引なタチだから
 Aのおにいさんは負けたのかもしれないけど、それにしてもこの二人は
 人間じゃないわよ」
  Y子の苦労は六区じゅうの楽屋で美談だったから、仲間たちは怒った。
 [中略]
 結局のところK子は、劇場からいびり出されてしまった。
  Aの評判も散々である。楽屋のテレビに彼の顔が映ったりすると、
 汚らわしいとばかりチャンネルを変えてしまう。
 [中略]
 そのとき以来Aは浅草と縁切りのようだ。何十年と経ったいまでも土地の
 催し物にほとんど顔を出さないし、そこで育ったことを世間に忘れて欲しい
 ように見えるくらいだ。
 [大きく略]

  Y子も表面では諦めたように見えるが、しばらくの間は酒が入ると以前
 より荒れることが多かった。それにつけても彼女の心根は立派だった。
 Aを懸命にかばっていた。彼のほうでどう思っているか知らないが、Y子を
 おろそかに考えたら罰が当る。>(p190~194)

 広岡敬一が女性週刊誌の仕事でAの出世物語をまとめようとしたとき、
<スキャンダラスに取り上げるつもりはなかったが、それでもY子は自分
 との関わりに触れないでくれという。
  「もっともっと出世をする人なんです。だから、いまを大切にして
 あげたいの」
 [中略]
 この企画を諦めることにした。Y子の気持を思えば、無理はしたくない。
  しかし念のため、Y子とのことをAにただしてみようと考えた。問い合わ
 せたとき彼は不在で、あとから代理の人を通して返事をもらった。
  「そのような女性について、Aは記憶にないと申してます」
  国会での証人答弁のように素っ気ない。まさか本人が......。そんな
 ことはあり得ない。おそらく、スキャンダルになるのを恐れた取り巻きが、
 勝手にごまかそうとしたのだろう。二十年以上も前だから週刊誌はまだ
 穏やかな時代だ。しかも記者は気の弱いこの私である。深追いされずに
 コトは済んだ。もし現在のようにTVリポーターが大活躍だったら、Aは
 とことん追求されただろう。下町人情が売り物のシリーズを続けられたか
 どうか。>(p194~195)

 ここまでイニシャルで通されると、訴えたりはできない。渥美清は(ビート
たけしを例にとってもいいが)自と他の関係が浸透し合う浅草から抜け出す
ことによって、浅草を相対化する視線と立ち位置を手に入れ、下町に生きる
人々を演じることができたのだ。

     (広岡敬一「浅草行進曲」 講談社 1990初 帯 J)

 






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by byogakudo | 2015-08-22 16:38 | 読書ノート | Comments(0)


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