猫額洞の日々

byogakudo.exblog.jp
ブログトップ
2015年 11月 08日

マーティン・H・グリーンバーグ編/田口俊樹・他訳「新エドガー賞全集」半分

e0030187_13374794.jpg












 1981年から88年までの、「アメリカ探偵作家クラブ傑作選」短編集だ。
和田誠によるジャケット画、ポーの胸像の影が黒猫だが、ポーのとぼけた
表情がいい。

 1984年受賞作が、ローレンス・ブロック「夜明けの光の中に」。自殺して
しまう南部の薔薇のような美女のエピソードが、長篇「聖なる酒場の挽歌」
2014年7月11日同年7月12日)の元だ。

 去年の夏はローレンス・ブロックに助けられて、なんとかやり過ごした。
起きて朝食をとって、ソファに横になってローレンス・ブロックを読む。
動けない。日が暮れてSが夕食を準備し、食し、わたしは(脚が身体を支え
きれないので)流しにもたれかかってシンクと排水口を洗い、寝る前に洗面所
の排水口を掃除する。それ以外ほとんど何もせず、ベッドとソファを往復する
ような毎日だった。

 苦痛の記憶は消え去った。思い出そうとしてみるが、どれも記憶に薄い。
ひとごとみたいな、遠い夢のような記憶。
 掃除マニアなのに掃除機を動かす体力がなく、Sがときどき床に掃除機を
かけていた。洗濯は、干すときに紫外線対策してからでないと、覿面、あの
恐るべき痒みの発作に襲われる。浴室掃除するSの様子が思い出せないから、
息を切らしながら自分でやっていたのだろうか? 
 そうだ、ちょっとしたことをするにも、息を切らしていた。何か喋ろうとすると
息が短いので、スタッカートでフレーズに分けて喋る。外に出ると、他の歩行者に
次々に追い越される、歩行困難な老人の速度だった。

 秋になったある日、mer-de-cureの終りを告げられ、それをSに報告した瞬間、
目に力が戻ったという(2014年10月15日)。

 そんな思い出のあるマット・スカダー・シリーズのどれかに、好みの脇役が出て
いたのだけれど、何だったかしら。ハリウッド映画に出てくる、すぐ殺されるだろう
と予想させ、その通りになる、軽いアクセント付けみたいな脇役だ。
 マット・スカダーが聞き込みに行ったひとりの、生き延びたとして将来もうだつが
上がらなそうな若い男だが、貧しい部屋のベッドだけはきちんとメイクしている。
ひとり老い朽ちて行きそうなのが怖くて、これだけはやっていると、マットに話す。
哀れさが共感を呼び、次のシーンではやっぱり殺されていた。

 この物語は(まだ)見つけられないが、日本式の"ワンルーム"は何と呼ばれて
いるかが出ている本を見つけた。「慈悲深い死」(2014年7月13日)のアル中の
エディが住むヘルズ・キチンの部屋で、

< 中は、縦一列に小部屋を三つ並べた、典型的な安アパート(レイルロード・
 フラット)の造りになっていた。中にはいって最初の部屋が居間で、
 [中略]
  次の間が台所だった。レンジと流しと冷蔵庫が壁際に一列に並んでいた。
 流しの上に窓があり、外は風道(ふうどう)になっていた。台所器具と離して、
 鉤爪状の足のついた、旧式の大きな浴槽が置いてあった。
 [中略]
  最後の部屋が寝室で、エディはそこにいた。>(p128)

 台所に浴槽があるのは、フランシス・ベーコンの部屋もそうではなかったかしら?

     (マーティン・H・グリーンバーグ編/田口俊樹・他訳「新エドガー賞全集」
     ハヤカワ文庫 1992初 J)





..... Ads by Excite ........
[PR]

by byogakudo | 2015-11-08 17:24 | 読書ノート | Comments(0)


<< マーティン・H・グリーンバーグ...      橋本治『「三島由紀夫」とはなに... >>