2015年 11月 23日
いつだったかブログのレポート欄を見たら、小林信彦「小説探険」読了 を読んでくださった方がある。 書いた本人はすっかり忘れているけれど、 <ロバート・バーナード「暗い夜の記憶」(現代教養文庫)が、 読んでみたくなった。植草甚一好みであるそうな。 < 植草さんが「暗い夜の記憶」を読んだとすれば、 「出だしで唸ったものだ」 と書いたのではないかと思う。>(p144)>と書き抜いている。 興味を惹かれた本のタイトルは手帳に(手書きで!)メモしておけば 覚えていられるかもしれないが、それでも怪しいな...、書いただけで 安心して、古本屋の店頭に立ってもメモの存在を思い出さない可能性が ある。 ともかく、そういうきっかけで、入手して読むことにした。2008年に 読みたいと思ってから7年目である。 そして、面白かったのだ。 学童疎開ミステリ(?)である。第二次大戦中、ロンドンはドイツ軍の 空爆に襲われる。田舎に疎開した、ショックで記憶を失った5歳くらいの 男の子が主人公で、彼の成長の物語が10年毎に語られ、同時に10年刻みの イギリス社会・風俗の変遷物語にもなっている。 風俗小説として読んで興味深く、このまま彼の出生の謎など、どうでも いいかと思っている頃、記憶を失った訳が分かり、さらに捻りがきいた エンディングへ続く。ミステリとしても、ちゃんとしている。 移民排斥の歴史はユダヤ人差別から始まっているが、主人公が実の親を 探し始める1960年代では、右翼の集会の様子が描かれている。 <演説のスタイルはヒットラーよりムッソリーニをモデルにしていたので、 いやな記憶を喚起することもそのぶん少なかった。イギリス人は昔から あのイタリアの気取り屋に甘く、国を任すことは考えられなくても、 国鉄の責任者にはしてやってもいいぐらいの気持を抱いていたもの。 <指導者>の演説の内容は前座とそう変わらなかったが、露骨な人種差別 表現は洗練され、歴史や哲学の引用によってふくらみを持たされ、前より 微妙なだけにじわじわ浸透する効果があった。私同様、みなさんも知性と 教養あるかたがたであり、信ずるところには立派な知的根拠があるのだ、 と言っているように感じられた。>(p140) 主人公がロンドンで就職して住む部屋は、 <ベッドシッター(一間で寝室と居間を兼ねる住居)は小さく、思ったとおり 陰気だった。一方の壁にソファ・ベッドがつけられ、暖炉にはガス・ストーヴ が置かれ、古い肘掛け椅子の張り地だけ替えたものが寄せてある。炉棚のそばの 合板の棚には、この部屋の呼び物の一つとされているらしいガスコンロ。汚れた レースのカーテンが下がった窓の下には、安定の悪そうな木のテーブルがあり、 アルミとビニールの椅子が一脚配されている。>(p64) 楽しく読んだが、2008年8月12日に興味を惹かれていながら、その後 『暗い夜の記憶』のタイトルは忘れ去られ、ロバート・バーナードの 他のミステリを面白がって読んでいるのが、我ながら解せない。 2013年11月19日『芝居がかった死』、同年12月25日『作家の妻の死』、 2014年2月26日『雪どけの死体』と、読んでいる。 おーい、わたしの記憶、やーい! (ロバート・バーナード/浅羽英子 訳『暗い夜の記憶』 現代教養文庫 1991初 J)
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by byogakudo
| 2015-11-23 23:28
| 読書ノート
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