2015年 12月 16日

奥出直人『アメリカンホームの文化史』読了

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 アメリカの住宅の歴史をコンパクトにまとめてあるが、こちらに
アメリカ建築史の知識がないので、この3倍くらいの分量で、ゆっくり
と解き来たり解き去ってくれたらなあと、ないものねだりしてしまった。
 入門書はダイジェストになるから仕方ないのだけれど。

 郊外の土地付き一戸建てに住むのがアメリカン・ドリームの実現
であるそうで、そこでローレンス・ブロックのマット・スカダー・
シリーズを思い出した。

 マット・スカダー(と妻になったエレイン)は、断然、大都市の
集合住宅を選んで暮らすが、住まいの選択からして彼らは、大多数
を占めるアメリカン・ドリーム派から、はぐれている。
 ホーム・スイート・ホームな設定から遠く離れて、アメリカ的成功
を拒否して、ハードボイルドな探偵はそれでも、都市生活者として
家庭を持ち、生きる。

 居は気を移す。あるいはメディアがメッセージである。どんな外観の
住宅を選ぶか、家族以外の他人を通す、パーラーの室内装飾の趣味は
どうであるか、郊外の分譲住宅地のグレイドはどの程度であるかなど
などが、住人のステイタスを明示する。

 読んでいて痛感したのは、アメリカのピューリタニズムの歴史は、
身体に沁みこんだ物語なのだ、ということ。
 王の圧政から新天地に逃れ、そこで理想の共同体(勤勉で敬虔で
互いに思いやり合って云々)を築いて暮らす、というのがピューリタン
の神話である。
 正義はわが身にあるから、元からの住人を追い払って町をつくり、
この時点で、自らが圧政者の立場になってしまったことに気づく由も
ない。悪気(の自覚)なく、どこまでも突き進むアメリカン・ドリーミー
な醜いアメリカ人が、かくして、できあがる。

 自分の所有する土地と家とが、彼が彼であることを示す。番いである
彼女の役割は、彼がそうなるための補助活動である。自分のテリトリー
を守るための銃を持つ自由、と言い出すのも、彼らなら無理もないか。

 『第4章 快適さを求めて』より引用。

<バンガローハウスの普及の背後には、単純さの美学という建築家に
 よって主導されたモダニズムの動きと、社会的な理想、すなわち全て
 の人々が効率的で暮らしやすい住まいを私有する、という社会改良家
 たちの動きだけではなく、拡大する中産階級住宅マ−ケットを狙った
 企業の成功という商業的な理由もあったのである。
 [略]
  ローンによって住まいを手にいれた中産階級は「資産階級」になった
 と自ら思う。
 [中略]
 だが、一八七三年にフリードリッヒ・エンゲルスは「住宅問題」を著して、
 資本主義体制において、ブルジョワジー以外の階級に住まいの私有を促進
 しようとする試みは、資本家と労働者の対立を曖昧にさせる手段だと述べて
 いる。
 [中略]
 住宅は賃貸に回して初めて資本となるのだ。それどころか、住宅の私有を
 試みる労働者はローンの支払いに追われて、再び、かつての農奴時代の
 ように、土地に縛りつけられ、自由を失うとしている。>(p171~174)

 そしてロシア革命が起きる。

<ソ連が一九二〇年代に建てた住宅のうち三分の一が個人の家の中の台所を
 省略し、いくつもの共同炊事所を設けた集合住宅であったことはアメリカで
 かなりのショックを引き起こした。ソ連は女性をまず労働者と考え、次に
 主婦と見なしている、とアメリカの資本家たちは考えたのであった。
 一九一九年には不況が始まっていた。女性の解放による女性労働者の拡大は、
 白人の男性労働者の職を奪ってしまうことになると危惧された。
 [中略]
  資本家たちは女性を労働市場から締め出すことによって、家事の軽減に
 よって女性を解放しようとする家政学者や共産主義者の考える生活とは別の
 暮らしを提案することを考える。そのために白人の労働者に私有の住まいを
 与える戦略が用いられた。ローンで持ち家を購入させることで新しい秩序を
 確立させようとしたのである。>(p176~177)

 そして、ティム・バートンが見せてくれる、アメリカン・ナイトメアな郊外
住宅群が建ち並ぶ。

     (奥出直人『アメリカンホームの文化史』
     住まい学大系/018 住まいの図書館出版局 1988初 帯 J)

[同日追記:
 ローレンス・ブロックのもうひとつのシリーズ・キャラクター、殺し屋ケラー
の就いた正業が、中古戸建て住宅のリフォーム業だったのも、思い出せば皮肉な
設定だった。]
     





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by byogakudo | 2015-12-16 17:07 | 読書ノート | Comments(0)


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