2015年 12月 25日

牧野武夫『雲か山か 出版うらばなし』いちおう再読読了

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 昨日の写真は、去年の今ごろ。大月へ行ったのだ。夜の山中の星空、
山中湖畔の大気。夢のようだ。

~12月24日より続く

 "いちおう読了"なのは、前半の『出版うらばなし』だけの再読だから。
印象的なタイトル『雲か山か』は、後半の九州紀行に属する。

 高田保が亡くなる20日ほど前、牧野武夫がお見舞いに行った。

<病室へ案内された。人なつっこくニコッと笑っていた。
  「僕はもう何も書けない。何もお手伝いが出来なくなった。君ん
 とこの『南方熊楠全集』ね、ぜひやり通してくれよ。僕の読者で、
 南方に関心を持ってる人がこれだけある」
 と蒲団の下に手を入れて、七、八枚のハガキを取り出して渡して
 くれた。>(p118~119)

 『二六、四大取次のころ』と『二七、ここらで一理屈』を読んで、
取次が分かった。問屋と考えるから、何でそんなに出版業界の中で
力があるのか分からなかったので、問屋+銀行やあまぞんと同じような、
手堅い手数料商売と理解できて、やっと取次の存在理由に思い当った。
 出版全体の信用を引き受けてくれる存在だからだ、口うるさいけれど。

<委託販売制度を原則とする限り、取次店の本質的性格は、いかなる
 場合も絶対損にはならぬ安全度と安定性の上に立脚しているのである。
 現実に、出版社に金を貸さない銀行も、取次にはいくらでも融資をする
 ではないか。
 [略]
 物事というものはそうせっかちに白か黒かをきめつけるもんじゃない。
 かりに取次から支払われる手形に信用がなくて、どこへ行っても割れない
 ような事態が起きたら......。そういう場合もいちおうは考えてみること
 である。多くの版元から取次に持ち込まれる商品は、毎月何億何十億。
 その受渡しはいったいどうなっているか。すべての版元は、何百万何千万と
 いう金額のものを、単なる受領伝票という紙きれ一枚と交換に預けっぱなしで
 何の不安も感じないのである。その受領票には印紙も貼ってない。これほど
 大きな信用というものがほかのどこにあろうか。[中略]
 取次が安泰であるということはまた必要なことであり、そうあって欲しい、
 そうあって貰わねばならぬ面もあるのである。だから現在あるがごとき取次の
 業態について、その功罪を結論づけるのはまだ少し早い。>(p124~125)

 この単行本が出たのが1956年だ。再販制度のマイナス面も目立ってきて、
議論のあるところだろうが、いきなり話が飛ぶけれど、貿易の自由化を謳う
TPPは、アメリカにもっと貢げという理解でいいのでしょうね? 民営化や
自由化すれば今の日本の閉塞状況が解消すると、プロパガンダされているが。

 前半最後の章は、『三五、「生きている兵隊」事件』だ。中央公論社創立
70周年に当たり、石川達三『生きている兵隊』を掲載して事件になったときを
振り返る。

 日華事変のころだ。検閲を通すのが難しいと分かっているから、伏字や
一部削除して出そうとしたが、そもそも締切日を三日過ぎて原稿が届き、
印刷に取りかかる期限が疾うにきていた。

<輪転機が動き出してから幾度も、停めては削り停めては削りしたという
 のでは、いろいろ違った種類の雑誌が出来るのが当り前である。内容の
 違った[中略]
 特に、一ばん多く削られたもの即ち最終に出来たものが納本分に廻り、
 削り足りない初めの分が市販に__しかもそれが遠隔の地方から順々に
 割り当てて輸送されたということが、いけなかった。>(p177)

 人をまず罪人視するのが検察や警察の基本姿勢なので、意図的目くらまし
と見なされる。

< ついに発売禁止という行政処分だけでは済まなくて、思想犯として治安
 維持法にひっかかる司法事件にまで発展してしまった。そして筆者の石川
 達三氏と編集実務者の雨宮君は禁固刑に、名義人である私は罰金刑に、
 処せられた。
 [中略]
  軍部ファッショの大きな流れの前に、「中央公論」や「改造」の存在は
 眼の上のこぶであった。「生きている兵隊」事件はその意味から彼らに
 絶好の口実を与えたようなもので、嶋中社長が最も狙われた。[中略]
 「大魚を逸した」気持の検察側はその後ますます硬化し、横浜事件を
 契機についに「中央公論」を扼殺したのであった。>(p177~178)

     (牧野武夫『雲か山か 出版うらばなし』
     中公文庫 1976初 J) 





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by byogakudo | 2015-12-25 23:06 | 読書ノート | Comments(0)


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