猫額洞の日々

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2016年 02月 17日

サマセット・モーム/龍口直太郎 訳『劇場』1/3

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 俗っぽくて楽しい小説、物語性たっぷりで皮肉な人間観察(但し
表面的)もたっぷり。モームらしい小説なのだろう。

 1937年刊行の小説に、わたしの好みを押しつけてはいけないが、
ジョージ・バクスト『ある奇妙な死』(1966年刊)の域、キャンプな
俗悪さの域まで目指してくれたらなあ、もっと楽しめるのに...。

 モームを読むときはいつも、ないものねだりしやすい。ストーリー
テラーに、その語り口まで云々しちゃいけないのだろうか、という
疑問もつきまとうけれど。
 グレアム・グリーンには文句をつけないのにと思うが、モームは
1874年生まれ、グリーンは1904年だ。30年違えば、小説に対する
意識も大きく異なって当然で、わたしの不満は、言いがかりめいて
いるかもしれないと反省する。

 37年刊だから、第一次大戦前に始まり、第一次大戦の戦後から第二次
大戦が近づく頃までの話だ。
 主役はイギリスの舞台女優、ジュリア・ランバート(育ちはそれほど、
しかし女優としては偉大)、次いで彼女の夫、マイケル・ゴセリン(紳士
階級。古典的な美貌、役者としての才能は妻に大きく劣るが、能力を活か
して劇場経営)、そして彼らの周囲の人々が出てくる。

 物語の現在時で、女優は46歳、夫・52歳。彼は従軍したとき36歳だから、
1930年ころの話と理解していいだろうか。

 彼らの劇場の会計事務に新しく雇われた青年を、夫妻は昼食に招く。青年は
彼女の大ファンで、念願が叶って雇われた上に、昼食にまで呼ばれ、大感激
するが、食卓にパンが見当らないことに当惑する。
 夫妻は炭水化物ダイエットをしているので__

< 焼ひらめ、カツレツのグリル、ほうれん草、果実の蒸煮>に、客のために
コックが急いでつけ加えた<じゃがいものフライ>(p13)。これを食べるのは
青年だけで、彼はさらにパンを所望したのだ。

 夫・マイケルはダイエットだけではない、

<はたちの頃から体重に増減がなく、もう何年間も、晴雨にかかわらず
 毎朝八時には起きて、セーターと半ズボンだけでリージェント公園を
 一回り駆けてくる、というのが彼の自慢だった。>(p15)

 彼女は、ダイエット+昼寝+マッサージでスタイルを保つ。

 お昼のあと、青年にサイン入りの写真を上げる。青年が感謝して去った
後(ほんとに舞台上から姿を消すときみたいに男たちが消える)、長年の
多数の写真を前に、彼女の回想が始まる。第二章から十章まで、延々と
彼女と彼の人生の始まりから語られて、第十章の冒頭__

< 扉をノックする音が聞こえた。
  「おはいり」ジュリアが声をかけた。
  エヴィー[注:衣装係兼小間使]がはいってきた。
  「ミス・ランバート、今日はおやすみにならないんですか?」>(p122)

__いまの小説なら、エヴィーをもっと早く登場させ、回想の続きは何回
かに分けそうだが、昔の小説だから。

     (サマセット・モーム/龍口直太郎 訳『劇場』
     新潮文庫 2007年23刷 J)

2月19日に続く~





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by byogakudo | 2016-02-17 17:52 | 読書ノート | Comments(0)


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