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猫額洞の日々

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2016年 02月 29日

田中美穂『亀のひみつ』読了

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 写真は27日(土)の散歩時に。むかし、東の東京を歩き始めたころ、
ぶつかったお家に再会。
 東京はやっぱり東側だ。西にしか住めなかったけれど。地下鉄に乗る
体力が維持できれば、いつでも蔵前や人形町に行ける...。


 わたしは、亀・認知度が低い。飼ったことがないし、見かけた記憶も
少ない。公園の池では鯉とともに亀が泳ぐし、明治神宮の、井戸近く
の池の亀たちが4時か5時のチャイムとともに、一斉にどこかへ消えて
しまったのを目撃したり、お堀を悠々と泳ぐ大きな亀かスッポンを見た
こともあるが、触ったことはない、と思う。

 TVで、老夫婦と飼い亀の様子を見た記憶がある。飼い犬や飼い猫と
同じような、ヒトとカメのつき合い方だった。ご主人を玄関までトコ
トコと送り迎えし、夜は木の椅子に置いてある、小さな毛布に包んで
もらって寝む亀だった。亀って、なつくんだと驚いた。
 もう一つの亀ライフの映像が、著者、蟲文庫店主・田中美穂さんが
ホームページに上げていらした動画だ。いま、どのページだったか
見つけられないが、猫を追いかけて廊下を、かなりな速度と音を立てて
進む、亀の勇姿だった。亀は走る! 知らなかった。

 そんな貧しい亀知らずが、全編・亀の本を読んで理解できるのか。
小説でも映画でもドキュメンタリが苦手で、もっぱら人事を描いたフィク
ションにしか反応しない(動物文学も苦手)たちで、ついて行けるのか。

 ところが、みごとに楽しかったのである。ひとえに作品のもつ力である。
ほんのりしたヒューマー、静かな観察、亀を廻るできごと全般を見渡す
視界。いつの間にか一冊の本が終わる。

 本であること、つまり装釘・造本もすてきだ。ジャケットA面(表側)
は薄緑色に白抜きで『亀のひみつ』とシンプルだが、B面(裏側)が
凝っている。草の上のクサガメ・サヨイチ氏が見開きで現れ、左下には
萩原朔太郎の詩『龜』。グラシン紙で覆ったが、糊付けせず、いつでも
B面が見られるようにした。

 ほぼ全ページにカラーで写真や挿絵があるが、『第2章 亀のひみつ』
『甲羅のふしぎ』では、いろいろな人の描いた亀画が紹介されている。

 3月19日(土)から新宿 K's cinema で新作『ジョギング渡り鳥』が
公開される、鈴木卓爾・監督も亀画を寄せられ、さすが映画監督と
思わせる絵のうまさ(絵コンテを描くからだろうか、映画監督はみんな
絵がうまい)だけれど、キャプションは、
<飼ったことがない人代表>。
講評は、
<ガメラ好きということで意外にも細部までよく描けているのですが、
 やはり甲羅の枚数が多すぎます。>(p080)

 p081には甲羅の規則性を示す挿絵がある。これを見て、子どもの頃
よく食べていた亀の甲せんべいを思い出してしまうのが、亀痴である。

 フルカラーの中に一枚だけ、モノクローム写真がある。
<庭の水道付近で遊ぶ1歳半くらいの著者。
 いまもこの場所で亀水槽の掃除をしています。>
(『第1章 うちの亀』『亀とわたし』p023)
 大人になった田中美穂さんの顔がすでに在る。

 その右側にはカラーで、いまの姿(1歳半から約20年後に作った
亀リュックを、制作後20年経って背負った姿)。種としての亀は
2億年変わらなかったそうだが、ヒト・個体として(失礼!)変わら
ない著者も、すごい。

 ひとは、ごく早いうちに決定される。決定的なものを確実に生きる
のが、生物として正しい生き方かもしれない。亀や猫や苔に学び
ながら。

     (著者・田中美穂/監修・矢部隆『亀のひみつ』
     WAVE出版 2013年3刷 帯 J)





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by byogakudo | 2016-02-29 21:29 | 読書ノート | Comments(0)


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