2016年 04月 07日
~4月2日より続く < しかし、プロの建築家だからと言って、伊東が大震災後に何をすべきかを よく理解していたわけではない。伊東は東日本大震災の数週間後に「帰心 の会」という集まりを、5人の建築家と一緒に結成した。メンバーは伊東の ほかに、山本理顕、内藤廣、隈研吾、妹島和代だ。この帰心の会が最初に 東京で開いた「震災復興シンポジウム」では、数々の批判が出た。「これだけ 集まってできる議論が、たったそれだけか」「建築家は、行政と関わるような 復興事業ではしょせん素人でしかない」といった意見は、若手建築家が発した もの。帰心の会のメンバーからも、「復興の場から建築家が疎外されている のは、建築家が自分のことしか考えていない連中だと世間から思われている からだろう」といった自省の念を込めた発言も出た。>(p330 『大地震』) この箇所は、『1970年代/若い建築家の頃』の黒川紀章の発言を思い出させる。 <丹下健三の教え子[略]黒川紀章は、国を担う建築家、国家のプロジェクトという 存在自体があり得ないと主張する。「国家をつくってきたのはあくまでも官僚で あって、建築家ではない」と。 [略] 自身も大阪の国立民族学博物館をはじめとして行政の予算によって建てられた 作品をいくつも持つが、[略] 「古代は神が人間を支配し、シンボリックな中心として神殿を建てた。その後 王の時代になって、ルーブル宮殿からパリに軸線が伸びるような都市がつくられた。 その後、王に代わって世界をコントロールしているのは資本主義であって、国家の プロジェクトなどではない」 黒川にとって建築家が力を持ち得るのは、時代を読み取った思想に基づく メッセージを送り、そこにムーブメント(運動)を起こした時だという。>(p121) スター建築家たちは、人気はあっても権力がない。未曾有の大震災に遭っては 権力機構に属さない弱みが露呈するが、それでもできることはある。 < 東日本大震災後から「建築家としてできることは一体何か」を考え続けてきた 伊東は、方々に仮設住宅がつくられるようになった頃に、ひとつの考えに至った。 仮設住宅に移って、[略]生活に必要な最低限の設備が与えられた。だが、内部は 狭くて圧迫感がある上、外へ出てもゆっくりくつろげる場所がない。[略] 集いたいと思っても、外の冷たい砂利道の上で立ち話をする以外に方法がない。 これを何とかできないか。 そうしてつくられたのが、この「みんなの家」第一号だ。木造で暖かみがあり、 尖った屋根は「家」の記憶を誘う。仮設住宅は屋根が平らで天上も低く、プレ ハブ素材で建てられ、そこはまるで檻に入れられたような均一性が支配している [略] 「みんなの家」ができたすぐから、宮城野区福田町南仮設住宅の被災住人たちは、 毎日のようにここに集い、薪ストーブで暖をとりながら編み物をしたり、酒を飲ん だりしたという。実は、この仮設住宅地区には集会所があるが、そちらは町内会の ミーティングをしたりする場所。お役所が作った場所なので、そうハメは外せない。 一方、こちらの「みんなの家」は、ふらっとやってきてくつろげる場所だ。 [略] 伊東は、「今を逃すと、建築は何も変われなくなる」と強く言う。東日本大震災 は、建築家に対して「唯一無二の機会」を与えている、と。[略] 「『みんなの家』は小さなプロジェクトですが、この実現のプロセスには実に 大きな意味が込められています。即ち、それは近代の『個』の意味を問い直そう とする試みだからです。近代以降、建築は個のオリジナリティに最大の評価を 与えてきました。その結果、建築は誰のために、そして何のためにつくるのか、 という最もプリミティブなテーマを忘れてしまったのです。> (p14~19 『陸前高田1』) これが2011年10月末現在。そして5年後の今、失語症がベースになった わたしたちが、いまだ呆然としている隙に乗じて、権力は東京に再開発バブル を起こすことで被災地におこぼれが滴り落ちるという神話を押しつける。 (瀧口範子『にほんの建築家 伊東豊雄・観察記』 ちくま文庫 2012初 J)
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by byogakudo
| 2016-04-07 18:35
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