2016年 04月 24日

アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『フラッド』読了

e0030187_18434936.jpg












 写真は、モランディ展の帰りに見た、JR有楽町駅ガード下の風景。

 4月15日(金)午後、新宿三丁目で1時間、時間をつぶさなければ
ならなかった。そういうときのために、東口B・Oはあるだろう。例に
よってスーツ売場をこそこそと通り抜け、奥のエレヴェータで6階へ。
108円棚をにらみ、文庫本を7冊買った。

 三島由紀夫『命売ります』、加藤周一『西洋讃美』、小沢昭一
『ぼくの浅草案内』、板橋雅弘/岩切等 写真『廃墟霊の記』、
P・G・ウッドハウス/岩永正勝・小山太一 訳『ジーヴズの事件簿
大胆不敵の巻』、そしてアンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳
『フラッド』だ。著者名は知らないし(古本屋時分に扱ったかも
しれないけれど...、いや、扱ってないと思う)、ヴォリュームは
あるしだけれど、本のほうから呼んでいる。

 ジャケット袖の著者影で、ヴァクスは右目に黒いアイパッチを
着けている。解説を少し見てみると、<ポスト・ネオ・ハードボイルド>
(p569)なんて書いてある。それって何?
 気になって一頁目を開いて読んでみた。

< その朝は早めにオフィスに着いた__十時ごろだったと思う。
 おれの姿を見たとたん、犬が裏口のほうへ歩き出したので、その
 まま外へ出してやった。おれも避難通路までついて出て、犬が
 屋上へ続く金属製の階段を上がっていくのを見まもった。犬は
 毎日、排泄物を屋上に垂れ流している。おれもいつか上がって
 いって、きれいに掃除しようとは思ってはいるのだが、こうして
 放っておけば、アル中どもがそこをねぐらにするのを防ぐことは
 できる__連中はたいてい寝煙草を吸うので油断できない。>
(p7)__これは買いだ。

 で、読み出したら、このところ昼間動くことが多くて、夜、すぐに
眠ってしまう。読了までに時間をかけ過ぎてしまった感があるが、
なんというか『スパイ大作戦』のノリ。ハリウッド・アクション大作
の『ミッション・インポッシブル』ではなく、TV映画の軽い風味で、
そこがいい。

 余談に走ると、60年代くらいだと映画スターとTVでのスターでは、
ランクに、はっきりと差があった。もちろん、映画や映画スターが上位、
TVで人気が出て、本編に引き上げられる、という位置関係だった。
 今では映画のスターを主役にして、長々しいサーガ・連続TVドラマが
製作されるようになったけれど。

 ああ、また余談を思い出した。50年代、60年代だと、映画に出ても
トップクラスでなければ、モデルのアルバイトをする。結婚してたか、
それ以前だったかのナンシー・レーガンが、フェイク・パールのモデル
をしたみたいに。彼女は実生活でファーストレディーに成り果せたので、
以て瞑すべし、ということだろうが。

 本題に戻って。
 この第一作から、シリーズ化を目指していたのが明らかで、主人公の
私立探偵、バークとその仲間たちのキャラクターが細かく描かれる。
 『スパイ大作戦』は半公的な組織だったが、その私家版であり、NY
アンダーグラウンド版といえる、こちらのチームも、なかなか優秀だ。

 主人公は何度も逮捕され服役しているので、用心深い。作戦を考えて
仲間それぞれに担当してもらう。モグラと呼ばれる科学技術者、ホーム
レスの老人・プロフ、性転換手術を夢見る男娼のミシェル、連絡中継基地
でもある中華料理屋のママ・ウォン、チベット人武闘家のマックスなどなど。
 顔ぶれからすると、むしろ都筑道夫の『なめくじ長屋』の面々みたいか。

 うらぶれてヤバい界隈に、台風娘ならぬ大洪水(フラッド)と名乗る若い女が
現れて、幼児虐待・常習者に復讐したいので探してくれと頼む。彼女は日本で
修行した武術家だが、『キル・ビル』のユーマ・サーマンと違って、豊かな胸の
ぽっちゃりタイプ。闘うのは得意だが、隠れている仇をじっくりと燻り出すような
綿密な作戦には向かない。逸る彼女を抑えるのも、主人公・バークの役目。

 フラッドの依頼の件だけでなく、悪の華咲くニューヨークでも、さらに腐爛の華
ひらく地帯__一回の大洪水くらいでは掃除しきれない__なので、あれこれ事件
も起き、それなりに片がつき、最後に彼女の決闘の場が設定される。

 アンドリュー・ヴァクスは第二のローレンス・ブロックにはならなくても、
もう一作は、読んでみようと思う。あまぞんで頼んでしまった。

     (アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『フラッド』
     ハヤカワ文庫 1996年4刷 J)

[同日追記:
 文庫本7冊目は、ジル・ドゥルーズ/湯浅博雄 訳『ニーチェ』。半額棚に
あったが鉛筆線引き等を発見した。
 場所柄で、客も店側もスレている、ないし練れているので、レジで報告
すると即座に、
 「108円にさせていただきます、ご指摘ありがとうございます」だった。]





..... Ads by Excite ........
[PR]

by byogakudo | 2016-04-24 19:24 | 読書ノート | Comments(0)


<< 神楽坂行きが雑司が谷に化ける      新宿御苑〜東中野 >>