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猫額洞の日々

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2016年 05月 02日

アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『赤毛のストレーガ』読了

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 先週は一日中雨が降っていた28日(木)以外、毎日出かけて歩き回り、疲れ果て、
夜、本を頭の上にかざすと朦朧としてくるのの連続で、さっきやっと読み終わった。
 たしかに老人に明日はない。だけど、まるで生き急ぐみたいに歩き回らなくても
よさそうだが。

 バーク・シリーズ第2作『赤毛のストレーガ」、無礼な言い方だけれど、調子が
出てきてる。第1作はやはり、サーガの土台作りに追われる面があるから、ぎごち
なくなったり窮屈な感じが少ししたが、メンバーのお披露目が、作者の中でも読者
に対しても終わった今、メインの物語もサブ・プロットも、自在に語り尽くされる。
作者の自信が伝わってくる。

 中心になる物語が、ニューヨーク・裏社会での幼少年ポルノの流通。同じく裏社会に
属するチーム・バークだが、全員、それだけは許せない。
 バークに話を持ってきたファミリーの女性__ストレーガ(邪悪な魔女)と称する__
の、やや大時代なファム・ファタールぶり、バークが前科27犯になってしまった、犯罪歴
の一例(ひとりで罪を背負い収監されたバークだが、チームは彼の出所まで彼の取り分を
蓄えている)、職質されても安全なように武器を処分する方法(そのまま実行できそう)
など、遠景・中景・近景、どの記述もうねりながら絡み合い、ひとつの大きな物語の流れ
になる。

<おれが一九六〇年代の後半に出所したとき、街じゅうにけたくそ悪い"兄弟"が
 氾濫していた。[略]
 ヴィレッジには、マリファナ・パワーの電気掃除機よろしく革命的ないいまわしなら
 どんな断片でも吸い込んでしまう連中があふれていた。
  あのころは、おれも羽振りがよかった。[略]
  そうこうしてるうちに、おれは行方不明になった子どもを捜す仕事もするように
 なった。それは街のピース・アンド・ラヴ運動といえなくもなかったが、裏通りには
 狼がうようよしているのだから楽じゃなかった。獣の中でもいちばんたちが悪いのは、
 生きのびるために食うやつらではない__楽しみのために食うやつらだ。
 [略]
  革命が死んでしまうと__BMWがジープにとってかわり、ヒッピーどもが、わずかな
 カネで借りられた結構なロフトを、六桁の頭金を払うような協同組合住宅に変えてしまう
 と__おれは時代とかかわりあうのをやめてしまった。>(p124~125)
 作者、アンドリュー・ヴァクスは1942年生まれだが、主人公バークも同い年らしい。

 79章から80章は、アナーキスト集団を率いる精神家医、パブロとの性と政治をめぐる
対話に費やされる。

 第1作のヒロイン、フラッドは、いまいち存在感が希薄だった(観念的な存在だった)
けれど、バークが必死で逃げようとするストレーガの迫力は満点である。そんなに出演
場面(!)はないのだが、『長いお別れ』のテリー・レノックスと同じで、影だけで
描かれたデッサンみたような存在感が残る。

 第3作と4作も、頼んでしまった。

     (アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『赤毛のストレーガ』
     ハヤカワ文庫1995初 J)





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by byogakudo | 2016-05-02 22:53 | 読書ノート | Comments(0)


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