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猫額洞の日々

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2016年 05月 13日

アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『ブルー・ベル』読了

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~5月11日下段から続く

 バーク・シリーズは、主人公・バークが仲間を率いて絶対悪__幼児虐待
をする手合い__を征伐するのがパターンだ。仲間たちは普段はそれぞれの
生業(社会からは犯罪と呼ばれるだろうが)に従事していて、各人の技術で
バークを助ける。最終的に悪の巣窟に殴り込みに行くときは、ほぼ全員出動
である。そこに至ると俄然、活劇調になる。

 バークは仲間の中で格別、能力に恵まれているわけではない。東洋人の
武術家・マックスみたように格闘技に優れてはいない、ひとりNASAみた
ような科学技術者・モグラの知識に太刀打ちできるわけもない。
 だが彼には綜合プロデュース能力がある。絶対悪の組織の実態を推理把握し、
乗り込むにはどんな準備と手配が必要かを考え出し、仲間に連絡して恊働する。

 簡単に<連絡して>と書いたけれど、ホームレスだったり街娼だったりする仲間と
連絡をとるには、彼らがその時いそうな場所に出向くか、やはりストリートで暮らす
連中に、彼らを見かけたらバークに電話するよう頼むしかない。その<電話する>に
したって、他人の電話を一時的に不正使用したり、中華料理店のママに電話して、
だったりする。

 原作が1980年代後半だから携帯電話がまだ普及してないこともあるけれど、
バークは基本的に直接接触しか信用しない。電話はアナログ、デジタル関係なし
に盗聴や不正使用(もちろんバークが自ら手がけたのではなく、漫画的なまでに
天才技術者であるモグラの技だ)可能なものだし、絶対悪を退治する相対悪と
しては警察もマカなければならないから、よけいな手がかりになりそうなものは
すべて排除する。やばいモノの運搬も手渡しが原則。すべからく、用心、用心。

 バークの用心深さ、注意深さは何度となく収監されたことで学習したものである。
刑務所で知り合った黒人(現在はホームレス)・プロフが教え諭してくれた成果だ。
 何を考えてるか窺い知られぬ無表情を身につけること。周囲を観察して、いざこざ
に巻きこまれないようにすること。巻きこまれる羽目になったら、諍いを誘った側が
後悔して、二度と手を出すまいと、思い知らせる方法で対処すること。
 そして、本を読め、あらゆることに知識を増やせ、というのがプロフの教えだ。

 それらを全部、実践会得した挙句、タフでクールなバークが誕生したのだが、
あんまり無表情を心がけ過ぎたのだろうか、他の連中はどんな個性でルックス
なのか頭に浮ぶけれど、主人公ただひとり、無表情の極み、読者側からも感情移入
し難い、まるで透明な男になってしまった。

 だから若く純情なストリッパー、ブルー・ベルがなぜバークに惚れ込んだのか、
わたしは理解できない。そういう展開、と了解して読むしかなかったのだが、
小説全体は成り立っている。最後まで興味を失わずに読んだ。

 しかし、不可解な現象である。主人公が物語の織り目に入り込み過ぎて存在感を
失ったという状況なのか? 疑問を抱えながら、続編『ハード・キャンディ』を
読んでいる。

     (アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『ブルー・ベル』
     ハヤカワ文庫 1995初 J) 





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by byogakudo | 2016-05-13 19:50 | 読書ノート | Comments(0)


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