2016年 05月 18日

今週のホイホイ(7)/『ハード・キャンディ』+セバスチアン・ジャプリゾ/望月芳郎 訳『寝台車の殺人者』読了

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~5月17日より少し続く

 アメリカのエンタテインメント小説の出版契約には、作品中にセックス
場面・何文字以上という契約条項が入っているのではないかしら?

 思い起こせば、ローレンス・ブロックでも世紀末的、あるいは黙示録的
状況を表すためでもあるが、こんなにしつこく性描写が必要だろうかと
疑問になる作品があったし、このところのアンドリュー・ヴァクスでも、
絶望を際立たせるためであろうか、せっせと性交場面が描かれている。

 __なぞということを考えていたら、
 「(作品に)必然性があれば脱ぎます」と応じる、60年代から70年代の
映画女優の答弁を思い出した。性表現は少しずつ社会での許容枠を拡げては
きたが、いつでも権力による取締りの筆頭候補である。

 性的な事柄は個人に密接する故に、タブー化されやすい(それだけが
理由ではないが)。いったんタブーとされると、極私的な領域だった筈が、
権力の行使範囲になる。
 「けしからん!」
 「そうだ、そうだ!」
 権力は大衆の無意識の嫉妬心を煽って、性表現を試みる人々を追いつめる。

 性的なことだけでなく、社会のあらゆる局面で発生する嫉妬心は、権力に
うまく利用される。

 権力にとって、貧乏人が多いこと、努力が報われない社会であることは
むしろ望ましい。大多数が、自分の絶望の原因に気づく時間的余裕が持てない
悲惨さの中に在り続けるほうが、支配はたやすい。貧乏人同士で噛み合いを
やらせておけばいいさ、権力は、そう考える。
 ときどき、おこぼれを投げ与えてやろう。忠誠心も煽らなきゃな、と。

 そして疲れ過ぎた人々は、信じてついて行けば、悪いようにはされないだろうと、
はかなく望むようになる。芥川賞受賞作家であろうが、権力に抵抗すると逮捕
されるぞと、明らかな暴力(権力誇示)を混じえながら、ムチときどき稀にアメが
繰り返される。

 暴力による支配・洗脳は、暴力団であろうと政権であろうと、やり口は同じだ。


 ところで、アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『ハード・キャンディ』の
原作は1989年刊行なので、主人公が聞く朝のラジオ・ニュースには、
<シンシン刑務所の在監者のグループが禁煙棟をつくるよう要求している>
(p245)という項目があった。

 アプレゲールのやることは訳が分からないよ、という嘆き節が基調にあり
ながら皮肉な展開を見せる、セバスチアン・ジャプリゾ/望月芳郎 訳『寝台車
の殺人者』は、1962年・原作刊行。喫煙はいまだ悪ではない。
 
< グラジ[注:ほぼ主人公格のパリ警視庁警部]はレイ・レ・ローズから来た
 がらがらのバスに乗り、タバコを吸うために後部の入口のところに立っていた。>
(p56)
__ 1970年にもまだ在った。バス後部の、二、三人立っていられるくらいの吹き
さらしの喫煙スペース。覚えている。喫煙可能な車輛つき地下鉄、もあった。コール
タールの滲みた木の床に吸い殻を捨て、靴でもみ消した。
 思い出せるけれども、まるで夢のような世界だ。

<彼は忘れようとしていたのだった。椅子にすわり、クレイブンAを一本吸いながら、
 いらだたしそうに、彼女のことはもう何も知らないといった。>(p144~145)
__クレイブンA! フィルターつき煙草で、たしかいちばん安く、愛用していた。
味は、ハイライト系だったか? おいしい煙草ではなかった。 
 (2年くらい煙草から離れている。EP-4の皆さんにお会いしたときも、別に吸い
たくならなかった。離煙ないし禁煙は減煙より、ずっと楽で、持続可能である。)

 大人たちがアプレゲールにふりまわされるミステリというと、『死刑台の
エレベーター』
だが、こちらはジャプリゾよりちょっと前の作品。近ごろの
若い者は、というのは人類、永遠の嘆き節だ。(いまにわかる。)

 ジャプリゾ第二作『シンデレラの罠』を、わたしは読みたいだろうか。疑問。
フレッド・カサック『日曜日は埋葬しない』の復刊を希求!
 
     (セバスチアン・ジャプリゾ/望月芳郎 訳『寝台車の殺人者』
     創元推理文庫1975年13版 J)
 





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by byogakudo | 2016-05-18 21:28 | 読書ノート | Comments(0)


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