猫額洞の日々

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2016年 06月 26日

三島由紀夫『命売ります』読了

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~6月25日より続く

 なんだろう、木乃伊取りが木乃伊になるの逆パターンで、観念的には
生ける屍・木乃伊だったはずが、一周廻って、生体である木乃伊取りに
なりたがっていることに気がつく物語、とも言えるし、朱に交われば赤く
なる。かりそめの社会生活・新婚生活を演じているつもりが、いつの間
にか、生きることに汚染される方を好む自らに気がつく物語とも言えるし。

 ぶよぶよした生命の集合体である社会にうんざりして、乾いた白い骨の
ような観念の世界に生きるには死ぬしかないと分かっているけれど、そう
理解するのも生きているからで、主人公・山田羽仁男(はにお)は堂々巡り
する。

 実在する本かどうか知らないけれど、山脇源太郎『日本甲虫図鑑』を
参考にして作った自殺誘導薬を、羽仁男は飲んだ。

< 世界がこれで意味あるものに変るという予感は何もなかった。
 [略]
 世界が意味があるものに変れば、死んでも悔いないという気持と、
 世界が無意味だから、死んでもかまわないという気持とは、どこで
 折れ合うのだろうか。羽仁男にとっては、どっちみち死ぬことしか
 残っていなかった。
  そのうち、自分の周囲がゆっくりと流動体になって廻りはじめ、
 [略]
 どうしてそういう幻想が生ずるのかわからないが、何だか、ゴキブリ
 の活字で充たされた新聞のような退屈な世界が、一生けんめい、何か
 すばらしいものに化けているという努力を示していると感じられた。
 『それにしても努力が見えすぎるじゃないか』と羽仁男の心は批評して
 いた。『無意味そのものが努力しているなんて浅ましいじゃないか』>
(p76~77)
 
 三島由紀夫はアシッドを試したことがあるのかしら?

 ところで羽仁男はコピイ・ライターの筈だった。
<テレビのコマーシャルの、五色製薬の胃の薬「スッキリ」の、
 「スッキリ
  ハッキリ 
  コレッキリ
  のんだと思えばもう治る」
  などというのは彼の作品だ。>(p7)

 それなのに、
< 彼はデザイナー時代からヒッピーの連中をよく知っていた。
 彼らは「無意味」の探求者にはちがいなかったが、不可避的に
 襲ってくる無意味に直面した人間とは思えなかった。
 [略]
  つまり、羽仁男の考えは、すべてを無意味からはじめて、その上で、
 意味づけの自由に生きるという考えだった。そのためには、決して
 決して
、意味ある行動からはじめてはならなかった。まず意味ある
 行動からはじめて、挫折したり、絶望したりして、無意味に直面する
 という人間は、ただのセンチメンタリストだった。命の惜しい奴ら
 だった。>(p186~187)

 この作品において、主人公の職業は、流行りのものなら何でも構わない。
カメラマンだろうと何だろうと。しかし、最初の設定がコピイ・ライターで、
作例も出していながら、次に職業の話が出たとき、デザイナーではまずい
のじゃないか。編集担当者は気がついたとしても、三島に指摘できなかった
のだろうか? 前にも書いたけれど、『宴のあと』のヒロインの私室が六畳間
から四畳半に方違えしてしまったり、なぜ編集者はミスを伝えなかったのかと、
重箱の隅屋は思う。
 他人(ひと)のことばかり言ってるから、加藤周一の本のタイトルと章題とを
まちがえて書いたりするのだが。(訂正済み)

     (三島由紀夫『命売ります』 ちくま文庫 2015年26刷 帯 J)





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by byogakudo | 2016-06-26 20:58 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-26 22:42
気がつきませんでした。
Commented by byogakudo at 2016-06-26 23:22
根がちまちましていまして、我ながら、しょうもない
ことに気がつくなと思います...。


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