2016年 06月 28日
~6月27日より続く 勝手知ったるニューヨークを離れ、インディアナにやってきた バークは町の様子を知るために、食堂のウェイトレスで、彼の 席を受け持った女の子に声をかけ、案内してもらう。同じ食堂で 働いているのが今回のヒロイン、ブロッサム。バークを担当した のは、おねえちゃんタイプのシンディーだ。 ニューヨークでなくても、スパイクヒールは全盛期らしい。 元トップレスバーにいたシンディーは、 <シームの入ったストッキング。中くらいの高さの白いスパイクヒール> (p92)で注文を取っている。 ブロッサムは、 <ユニフォームはシンディーと同じものだったが、この女が着ると、看護婦 みたいに見えた。膝下まで丈のあるスカート、白いストッキング、フラット シューズをはき、ブラウスは首までボタンをかけている。>(p94) と、地味に登場するけれど、あとでバークと親しくなると、俄然、スパイク ヒールの女になる。 町の案内係をやった後、シンディーは物語から姿を消すが、泣かせる キャラクター設定である。 バークの擬装はニューヨークのやり手ビジネスマンなので、どこかいい レストランは、と尋ねる。 < 「それって二重丸の店のこと? 高級とか?」 [略] 「だったら、<リカード>にいかない? あたし、まだいった ことないけど、ほんとにいい店だって聞いてるからさ」>(p143) 店のホステスはシンディーを値踏みして、悪い卓に案内しようとする。 バークは構わず、湖に近い卓に進む。ホステスとのやりとりを見ていた にちがいないウェイターが、やってくる。 <修業歴が信任状になった時代に修業したような男だった。 [略] 「[略]何かお飲み物をお持ちいたしましょうか......シャンペンなど いかがでしょう?」 「あたし、いいかな......?」 おれはうなずいて、シンディーがそれ以上何かいうのをさえぎった。 [略] シンディーはサーカスにきた子どもみたいに、まわりを見まわしていた。 それも、はじめてきた子どものように。「わあ、すごい! きれいなお店。 それに、店の人、あんたには丁寧だし。あたし、ほんとはシャンペン頼み たくなかったんだ。ていっても、好きは好きなんだけど。でも、いつも水で 割ってあったりするじゃない」 「ここはそんなことないだろう」 「そうよね。だって......男の人がお酒を出してくるようなところなら、 そんなことないもんね」>(p144~145) シンディーはインディアナのデイジー・ミラーにちがいない。しかし インディアナと聞いても、主人公バークに劣らず、日本語読者は土地勘が ない。インド林檎とカーレースしか思い浮かばないが、にも拘らず(?)、 バーク・シリーズにしては、しみじみと家族や家庭についての思いが伝わる。 ニューヨークを離れたおかげだろうか。 また、余談の余談だが、ローレンス・ブロックでもアンドリュー・ヴァクス でもアメリカ人は食事にお酒を飲まないときは、いつも甘い炭酸飲料を飲む のかと驚かされていたが、ついにその伝統はブロッサムによって破られる。 彼女はただの炭酸水を飲むのだ。アメリカ人らしくヴィタミン剤も摂る けれど、食事時にまともなものを飲む登場人物に、やっと出会った。 (アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『ブロッサム』 ハヤカワ文庫 1996初 J)
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by byogakudo
| 2016-06-28 22:18
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