2016年 07月 08日

神吉拓郎『洋食セーヌ軒』+アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『凶手』併読・読了

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 読み合わせの悪そうなカップリングで読んでいた。

 神吉拓郎『洋食セーヌ軒』は、雑誌『四季の味』1982(昭和57)年
春号〜1986(昭和61)年夏号連載(1984=昭和59年春号は休載)の
短篇を集めたもの。1987(昭和62)年、新潮社より単行本刊。

 神吉拓郎は、名前は知っていた。短篇集一冊を読んでみると__、
わたしは縁のない読者であると分かった。掲載誌にぴったりの趣味の
よさ、品のよさ、うまい(と言われる類いの)文章。だけど、こういう
巧さ(ムルソー・ワインの描写を例にとる)って__

< 黄金を融かし込んだような輝く液体。ごくわずかな緑色のかげりを
 持ったその微妙な色合いが目を捉える。グラスの肌が、みるみる露を 
 帯びてくる。
 [略]
  グラスを受けとって、加奈子はもう一度その透明な黄金に見惚れ、
 それから、立ちのぼる芳香を鼻腔に通わせてみる。それだけで、気持が
 弾(はず)み、体温が、かすかなカーヴを描いて高まるような感覚がある。
  つつましやかに、ひと口を含むと、冷たくなめらかな何かが、のどを
 滑り落ちて行く。そして、そのあとの虹がかかったような甘美な戦慄。>
(p10『ホーム・サイズの鱒』)__困っちまうぜ...。

 互いに憎からず思っている中年に差しかかった男女。男が女に手料理を
ふるまうデート・シーンの始まりなので、ワインの官能的描写が、末尾の
女が化粧を直しながら、
< (あたしは、やっぱりあの人に惹かれているのかしらん)>(p21)と、
自問する場面につながってるくらいは分かるけれど、どうもなあ、あたし、
はずかしい。ウェルメイドは諸刃の剣。出来が良ければ良いほど阿呆らしい。

 そういうわけで神吉拓郎ファンの方、申訳ありません。わたしに向かないだけ
です。主人公が戦前の小学生時代を思い出す趣向の短篇は、どれも気恥ずかしく
なく読めて、それは悪くなかった。

 解説に、向田邦子の世界と共通すると書かれていたが、向田邦子より力みが
なくて上手。(でも、だから、どうした...。)

     (神吉拓郎『洋食セーヌ軒』 光文社文庫 2016初 J)


 
 アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『凶手』は、バーク・シリーズが
書かれなかった時期、1993年の作品(その後、1994年の『ゼロの誘い』
からシリーズ再開)。なんというか、ハードボイルド情話。

 バークの辛抱強い気質と、武術家・マックスの技量を持つ、ゴーストと呼ばれる
男が、失われた恋人、シェラを探し求めて再会するまでの物語。再会への過程に
敷きつめられるのは、アメリカの最暗部の暴力、KKKとの血戦。KKKの総統は、
自分の娘を性的虐待の対象にする。

 バークはチームを率いるけれど、ゴーストは孤独なハンター。哀切なエンディング
といい、やっぱりハードボイルド情話、と言っていいのではないかしら。

     (アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子 訳『凶手』 
     ハヤカワ文庫 1998初 帯 J)





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by byogakudo | 2016-07-08 20:43 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2016-07-08 22:05
 神吉拓郎をかっこいいと思って読んでいた(四季の味で)自分が懐かしいです。
アベノミクス、格差、雇用、社会保障、憲法改正、、各論ではすべて政権に反対している世論、それなのに総論としては現状維持というのです。
勝手にしやがれ、とも思うけど、、やはり何とかしたいです。
Commented by byogakudo at 2016-07-08 22:27
(神吉拓郎、)あちこちの皆さまに申し訳なく
思っております。多々、すみません!

各論反対・総論賛成ってヘンタイとしか思えませんが、
見知らぬ解放者・アメリカより、慣れた独裁者・フセインの方がまし、みたようなことでしょうか。(ん?)
議論の際、反対意見を述べると、人格を否定された
みたいな反応が来るのは、日本語に問題があるので
しょうか?
 


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