猫額洞の日々

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2016年 07月 28日

アガサ・クリスティ/厚木淳 訳『クリスティ短編全集2 白鳥の歌』読了+ヘイトクライム

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 クィン氏もミス・マープルもポアロも登場しない短編ミステリ集。
原作は1934年刊。さすがに古いので古物玩味と意識しながら読んで
いたが、王家の宝石の盗難と巻き込まれた若い男女の恋愛が絡む、
同工異曲の短編が多いので、まあ退屈といえば退屈。
 メロドラマ性抜きではクリスティでなくなるか。(だから好まれた
訳だし。)

 ただ、タイトルだけ知っていた『うぐいす荘』のサスペンスは、
うまいなあと思う。王様の宝石盗難と恋愛が絡むパターンでは
あるが、『ラジャーのエメラルド』は、主人公の若い男の名前が
"ジェイムズ・ボンド"なので、後代の読者は、微笑しながら読む
ことになった。

 だって、このジェイムズ・ボンド青年が休日の海辺で読む本は、
「給料を年々三百ポンド殖やす法」である。
 売り子だったガールフレンドは名を知られるようになり、彼より
高いホテルに泊まり、上流階級ともつき合える身分になったので、
いまでは彼を軽視しがちだ。
 海岸に着替え用の小屋が建ち並ぶ時代だが、彼はもちろん、
貴族や大金持ちが所有する小屋で水着に着替えることなぞできず、
無料の小屋が空くまで順番待ちするしかない、しがない、さえない
若い男なのである。

     (アガサ・クリスティ/厚木淳 訳『クリスティ短編全集2
     白鳥の歌』創元推理文庫 1999年53版 J)
 

 小泉純一郎ブームのとき、過熱する人気の理由が解せなかった。
だって、あまく見積もっても2%しか浮かび上がれず、98%の人々は
下層に放っておかれる経済政策なのに、どんな根拠で、自分が2%に
いられると信じて熱狂するのか、さっぱり分からなかった。

 以来、貧富の差は拡大するばかりだ。貧富の差が広がると、社会は
不安定になる。周りを見渡してほとんどが、うだつの上がらない自分と
似たような"庶民"だったら、まだいい、諦めもつけやすい。

 だがTVをつければ、ブランド物に取り囲まれた有名人が紹介される。
大して美人でもハンサムでもなく、それでも彼らは有名なタレントとして
大金を稼ぐ。

 いちばん身近な、もはやなくてはならないスマートフォン他のweb空間を
あちこち眺めても、"普通のひと"でも自分よりお金があってブランド品や
高いレストランによく行ってるようだと悔しい思いに駆られて、秋葉原の
殺人者は犯行に及んだのじゃないかと、わたしは最初、想像していた。
 ("リア充"という言葉を初めて聞いて意味を知ったときは、ショック
だった。あさましくないか?)

 嫉妬心は視界を狭める。身の周りより先が見えなくなる。
 秋葉原の事件のときも、なんで彼が経団連や国会議事堂や首相官邸、
いや、彼よりお金持ちが歩いているであろう"歩行者天国"の銀座になり
向かわなかったのかが不可解だったが、彼にとっての"普通のひと"の
生活とは、休日の秋葉原で家電量販店に向かおうとするようなこと
なのだろう。いつクビを切られるかわからない不安定な雇用状況では、
それは手が届きそうで届かない"普通の"生活である。
 だから彼は、自殺する替わりに無差別攻撃という無理心中を選んだ。
"普通の"以外の、判断基準や価値感が持てなかった、べつの基準が
あるということさえ、想像できなかったのではないか。

 経済界や政府や官僚にとって、貧富の差を縮める経済政策を考え出し
実行することより、アメリカの意向を慮っての目先の政策決定のほうが
安易であり、自分たちの利益にかなう。アメリカに言われてオスプレイを
買うほうが、アメリカから認めてもらえ、社会保障に使うより自分たちに
とって得になる。
 貧乏人が多いほうが、じつは都合がいい。より低賃金でも職を得ようと
願う人々が増える。貧乏は資本の燃料だ。
 貧乏人たちが同士討ちで死んで行こうと、無策という政策をとり続ける
限り、替わりの低賃金労働者が次々に再生産されて行く。

 見放された思いの人々が、自分より更に弱い(と、勝手にみなした)
人々を襲う。中学生がホームレスを襲う。狂気に逃避したのではないかと
思われる(佯狂に見える)男が、優生思想で武装し自らを鼓舞しながら、
知的障害者施設を襲撃する。

 だって暴力は公認されている。選挙が終わるとすぐ、政府は沖縄の
基地建設を再開したじゃないか、機動隊員を動員して暴力的に。
 ヘイトスピーチ禁止法案は停滞中。言論の自由をダブルスタンダードな
言い訳として持ち出してくる。それにヘイトスピーチ集団は貧乏人の反抗
を抑える手段として、裏側で使えるから温存したい、と考えているのでは
ないか?

 ヘイトスピーチしたり、web上でその手の書き込みをしたりすることから
ヘイトクライムの実行までの距離は、ほんとは半歩しかないんじゃないか。
 暴力的な言葉で自他ともに煽っていると、いつか言葉だけではすまなく
なる。ヒトは言葉でできている生物だから、初めはそれほどの思いでは
なかったとしても、自ら発した言葉によって逆に規定される。それが"自分"
の"本気"だと思い込んでしまう。
 
 すべては連関し合っている。独立して存在するものなぞ、ありえない。
だから都知事選で反安倍晋三・独裁政権を訴えるのは当然ではないか。
 それに対して、権力に身をすり寄せるマスメディア=週刊新潮編集部は、
ヤンキー中学生並みのロジック(?!)で、

<「反権力を標榜(ひょうぼう)していた鳥越氏が、いきなり権力中の権力
 である東京地検に刑事告訴とはあきれるほかありません。まずはご自身の
 説明責任を果たされることを強く願います」>
(東京新聞2016年7月28日夕刊9面)と、盗人猛々しい、居直りぶりを見せる。

 この週刊新潮編集部は、むかし『現代フランス文学13人集』なぞを出して
いた、あの新潮社の雑誌部門なのか? 週刊誌は新聞や電車内での見出し
しか読まないが、TV局に出版社、またぞろ、大日本言論報国会なのか?
 恥知らずどもが。





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by byogakudo | 2016-07-28 20:10 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2016-07-29 10:01
ヒトラーの系譜を継ぐ人が増殖中、誰しも心中どこかに隠し持っている優生主義が嫉妬という肥沃な土壌で増殖中、育てているのは日本会議、男系主義ってのも優生思想の教義でしょう。
この事件でますます取り締まり・予防拘禁がやりやすくなった?
Commented by byogakudo at 2016-07-30 13:13
治安維持法はもうすでに実施されているような
気さえします。


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