2016年 07月 31日

岡本喜八『マジメとフマジメの間』読了

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 岡本喜八のエッセイから、
<「喜劇と戦争」を中心にまとめ>(p325 武井崇『解題』)た、
文庫オリジナルだ。

 読んでいると山田風太郎の青春を思い出す。物心ついたら戦争、
思春期から青年期はずっと戦争とともにあるし、岡本喜八は子どもの
頃に母を亡くし、山田風太郎は相次いで両親を失う。

 岡本喜八、1924年鳥取県米子市生まれ、2005年81歳と2日で死去。
日中戦争から太平洋戦争終結(1937年〜1945年)は、13歳から21歳
までにあたる。
 山田風太郎、1922年兵庫県養父郡生まれ、2001年79歳で死去。
日中戦争から太平洋戦争終結は、15歳から23歳まで。

 戦争を生き延びたふたりだが、どちらも小中学校の同級生(男子)の
半数は戦争関連死している。彼らは叔母や義母より、年上の世代だ。

 かつては夫と妻の年齢差が3歳以上あるのが適切(もちろん男が上)と
されていたので、叔母や義母が結婚適齢期(というのがあった)に達した
とき、彼女たちの結婚相手にふさわしい年齢の男性はいなかった。戦争で
殺されていた。

 戦争の狂気を生き抜くために岡本喜八が武器としたのが喜劇精神だ。
< 当時の私は、自分の寿命を「うまく行って二十三、下手すれば二十一」
 と、大掴みで踏んでいたのだが、刻々と近づく死への恐怖をマジメに
 考えると、日一日とやりきれなくなって行く。
 [略]
 はたと思いついたのが、自分を取りまくあらゆる状況を、コトゴトく
 喜劇的に見るクセをつけちまおう、ということであった。
  これは、存外うまく行った。飢えや、殴る教官や、対戦車特攻訓練を
 "笑い"にすりかえることで、ひそかに、ささやかな楽しみが増え、常時
 "死"のことを考えるコトも無くなったからである。>
(p12~13『戦争映画と私』)

 そういうわけで、死ぬまでに一本でも多く映画を見ようと志していた
映画ファンの少年は、死ぬまでに一本でもいいから映画製作に関わって
みたいと戦中に助監督になり、戦後も助監督に復帰して計15年の後、
映画監督になり、戦争喜劇をつくり出す。

 映画はフレーム内に映るモノがすべてだ。だから(なのか?)ディテール
が詳しい。

 戦時中の煙草の隣組配給制度の
<割当ては、成人男子一日六本だったという。
  だが、私の記憶では、巻き煙草が配給された覚えは殆どなくて、
 確か「みのり」とか何とかいう銘柄の手巻き用刻み煙草の、葉っぱ
 だけが何日分かずつ新聞紙にくるんだのを、隣組の当番さんちに
 貰いに行った覚えしか残っていない。>(p38『手巻きコンサイス』)

 "カマける"という動詞の使い方も独特で面白い。
<「戦争VSジャズ」の工夫にカマけなくてはいけない。>
(p160 自作を歩く『ジャズ大名』浜松・中田島砂丘)

<ニューヨーク第一日目はロケハン(場所さがし)にカマけ、二日目は
 丸一日、そのオーディションにカマけたのだが>
(p181『オーディション』)

< そんなこんなの、救護連盟との闘いにカマけていたおかげで>
(p300『ヘソの曲がり角』『5 スリルとサスペンス!』)

 自伝『ヘソの曲がり角』は 「週間漫画アクション」に連載された。
その『1 まごうかたない九七パーセント組』より__

< 小学校六年間、商業学校五年間、合わせて十一年間皆勤なんて
 ものは、はたから見ればまことに馬鹿馬鹿しいに違いない。しかし[略]、
 その後まことにタメになった経験だったようである。
  と言うのは、世の中の仕組みがすべて、金持ちとビンボー人、資本家と
 労働者、天才と並才、将官と兵士たちといった工合に、優等生三パーセント
 と劣等生九七パーセントといった割合だったからである。
  私は何れにせよ、まごうかたなく九七パーセント族であった。>(p248)

 戦争と青春の文学なんて、書かれない時代のほうがいいのだ。

     (岡本喜八『マジメとフマジメの間』 ちくま文庫 2012年3刷 J)

『しどろもどろ』も読了





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by byogakudo | 2016-07-31 21:59 | 読書ノート | Comments(2)
Commented at 2016-08-07 21:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by byogakudo at 2016-08-08 00:26
ブログを読んでいただけまして、こちらこそありがとう
ございます。
詳細な解題、すばらしいです。「無批評はシャクの
たね」が書かれた背景の詳しさなど、今の若い人が
当時の状況を知る、感じるために、とても役に立つ
記述だと思います。
対談集、拝読いたします!


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