2016年 08月 21日

フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一 訳『犯罪』読了

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 近所の何もないBO、108円棚にあった。
『序』の第一行、
< ジム・ジャームッシュがいっています。「映画を撮るなら、
 中国の皇帝よりも犬と散歩する男の方がいい」私も同感です。>
(p11)
に惹かれて買った。

 扉には、著者は刑事事件専門の弁護士、とある。各短篇の語者は
弁護士である。
 じゃアンドリュー・ヴァクスみたい? いや、この短篇集には
ミステリ風味もあるが、むしろ犯罪と人生が交錯するときの
スケッチ集だろう。

 トルコ系やギリシア系ドイツ人で、結局、犯罪に手を出して
しまう男たちの物語のひとつ、『タナタ氏の茶盌』の暴力描写
なぞ、ヴァクス顔負けの面もある。大都会での犯罪現場は、
どこでも似たり寄ったりなのかもしれないが。

< ガロテというのは細い針金で、両端に小さな木製の握りがついて
 いる。中世の拷問・処刑具を改良したもので、スペインでは一九七三
 年まで絞首刑具として使用されていた。そして今でも殺人の道具と
 して愛用されている。部品はどこのホームセンターでも入手できる。
 安価で、持ち運びが楽で、効果的だ。背後からこの針金を首にまわし、
 力いっぱい引き締めれば、声はだせないし、すぐに絶命する。>
(p47~48)
__こういう短い段落と、もう少し長めの(それでも1ページくらい)
段落との間を一行ずつ空けて、映画のカットみたように書かれていく。
行あけ以外に、縦長のクロスを入れたカット割り(?)もある。

 11の短篇のほとんどにリンゴが出てくる。『恐るべき子どもたち』を
思い出させる姉と弟の物語『チェロ』のように、スクーターの前輪が
リンゴに乗っかって、悲惨な事故を起こす場合もあれば、たんに画面
の点景みたような使われ方もある。まあ、楽園から追放されて地上に
在ることのシンボルだろう。

 明るい犯罪は実際にはありえないが、悲喜劇をドライに描くことは
できる。『タナタ氏の茶盌』の補遺の会話のピントのずれようなぞ、
たしかに、『序』に引用されたジャームッシュに近いセンスだ。

 読み終わったあとで、ジャケット・裏袖の著者経歴を見た。
(買ってすぐにグラシン紙で覆っていたので)よく読めないが、
おじいさんがナチの高官?! 「なんとね」(マット・スカダー式に)。

 あとで気づいてよかった。知って読むのと知らずに読むのとでは、
たぶん多少は読後感に影響したのではないかしら。バルドゥール・
フォン・シーラッハのwikiをせっせと読んだわたし自身を省みると、
作家と作品とを截然と読み分け得ただろうか、と思う。

     (フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一 訳『犯罪』
     創元推理文庫 2015初 J)

 さあ、アンドリュー・ヴァクス『グッド・パンジイ』に行こうか、
どうしようか。





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by byogakudo | 2016-08-21 20:24 | 読書ノート | Comments(1)
Commented by saheizi-inokori at 2016-08-21 21:26
私はルヘインの「過ぎ去りし世界」を読みました。


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