猫額洞の日々

byogakudo.exblog.jp
ブログトップ
2016年 11月 03日

(5)J・G・バラード/監修 柳下毅一郎/浅倉久志 他訳『J・G・バラード短編全集1 時の声』読了

e0030187_19163766.jpg












~11月1日より続く

 『J・G・バラード短編全集1 時の声』の最後が、1961年に
発表された『深淵』"Deep End"(中村融 訳)。なんというか
もう、すばらしい。2段組みで13ページほどの短編だけれど、
バラードの"破滅三部作"の完璧な予告編だ。

<新しい惑星の大気圏に酸素を供給するため、前世紀に
 海洋を乱掘したせいで>、地球から海がなくなる。
< 大西湖は長さ十マイル、幅一マイルの細長い塩水湖で、
 バミューダ諸島の北に位置しているが、大西洋の成れの
 果てであり、じつをいえば、かつて地球表面の三分の二を
 おおっていた海洋の唯一のなごりだった。>(p394下段)

 人が住む環境ではなくなった地球を捨て、人類は他の惑星に
移住する。陽光きらめくリゾート地に居残る人類の平均年齢は、
60歳以上がほとんど。10年もすれば22歳の主人公と、片肺の
ない海洋生物学者しか地上には生きていないだろう。

<忘れられた地球を見まもりつづけるという彼の決意を理解して
 くれそうな、ただひとりの>(p390下段)
同い年の女性も地球から去った。

 地球の終末に立ち会おうと意志する主人公に、神からの贈物が
与えられる。小さな水辺に、地球の復活再生を約束するような生命、
ツノザメを見出す。魚、つまりキリスト。
 けれどもツノザメは無惨に殺され、主人公には干涸びてゆく地球を
生きることしか残されない。

 連日バラードを読んでいると、散歩しながら目にする風景まで
バラード世界の延長に見えてくる。今日、玉川上水、ゆずり橋辺り
を歩いたが、死んだ水と澱みを歩むシラサギも、バラードに見える。

     (J・G・バラード/監修 柳下毅一郎/浅倉久志 他訳『J・G・バラード
     短編全集1 時の声』 東京創元社 2016初 帯 J)





..... Ads by Excite ........
[PR]

by byogakudo | 2016-11-03 21:47 | 読書ノート | Comments(0)


<< (1)ロバート・キャンベル(R...      ロバート・キャンベル(R・ライ... >>