猫額洞の日々

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2016年 11月 21日

ロバート・キャンベル/東江一紀 訳『ごみ溜めの犬』読了

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 『鮫とジュース』のあと、ハードボイルド系『L.A.で蝶が死ぬ時』と、
どちらかと言えば"人情もの"であろう『ごみ溜めの犬』とを手にいれて
読んでみた結果、ハードボイルド系は、ふたりともピンと来ない。

 Sが最初に"人情もの"系を読んだ。こちらは読めそうだ。読んでいられる。
というわけで、ジミー(ジェームズ)・フラナリーを主人公にする残り2冊、
『六百ポンドのゴリラ』『鰐のひと噛み』も入手し、安心してわたしも読み
出した。
 主人公がすごまないですむ、非情さを売り物にしないですむ、こういう
タッチの方が、ロバート・キャンベルは向いているのではないか? 読む側
も気が置けなくて楽である。

 ジェームズ・フラナリーは父親の代からのシカゴの民主党・党員であり、
班長だ。班長の仕事は、町内会の世話役みたようなもので、受け持ち区域
の住民から何か相談事があると、便宜を図り、解決してやる。
 いわば貸しを作る。その代わり、選挙のときは民主党に投票してね、と
いうことだ。

<僕は相手が共和党や無所属の候補に投票すると言明した場合でも、
 頼まれれば力を貸してやる。実際の選挙の段になったら、ある程度の
 見返りは当て込めるからだ。たいていの人は借りをちゃんと返そうと
 するものだ、と、僕は思っている。>(p10-11)
__文末の微妙さ加減が、主人公の性格やスタンスをよく表している。

 ジミーの受け持ち区域外での事件だが、無料の堕胎診療所が爆破され、
死者が出た。死者のひとりは彼の区域に住む老夫人であり、爆破事件の
前に嫌がらせを受けていると、知らせてきた。彼女はヴォランティアで
診療所に行き、手術を受ける女性の話相手になっているが、玄関前に、
血染めならぬケチャップ染めのナイフが置かれていたのだ。

 もうひとりの死者は手術を受けようとしていた娼婦。こちらが爆破の
メイン・ターゲットだ。彼女の存在が大きく取りざたされると、街の
上流階級のスキャンダルになる。上流階級もギャングやポン引き連中も
絡んでいるので、口止め工作が行われ、マスコミも警察も捜査に不熱心だ。

 巻き添えを食った老夫人のために、ジミーは私立探偵まがいの調査を
する。その過程で暴力沙汰に見舞われたり、診療所の看護師である女性
と知り合い、恋人になったりする。

< 僕がスパリー通りの診療所のまえにたどり着くと、七人の男と三人の女が
 "ナチスはダッハウで赤ちゃんを焼いた"とか、"人殺し、人殺し、人殺し"とか
 書いたプラカードを掲げて歩き回っている。女たちが胎児の掻爬(そうは)に
 抗議しに来た理由はわからないでもないが、招かれざる客を自分のおなかに
 迎えたことなどないはずの男たちの行動は、ちょっと理解しがたい。>
(p17-18)

 そういえば、P・K・ディックも堕胎反対派だった。しかし、受精卵を生命・
生体と認めると、受精卵を体内に持つ先行する個体(母体)の意思決定を
認めないことに繋がる。
 強姦された結果の妊娠でも、堕胎は認められない? やっと月経が始まった
くらいの少女でも、彼女の意志とは無関係に結婚させて妊娠可能なら産ませる
べき? 避妊は女として不誠実? 妊娠可能な身体を持つ女は、出産と子育て
行為にのみ身命を賭すべき、それを彼女の人生とするべき?

 妊娠・出産と堕胎手術は、それぞれに相手の立場が認められない。
原理主義的政治運動化するけれど、ここで描かれる反対運動派の女性は、
収入を得る手段として反対運動に参加していると、ジミーに言う。運動を
率いる男は、名前を売って政界に打って出ようとしている。

     (ロバート・キャンベル/東江一紀 訳『ごみ溜めの犬』
     二見文庫 1988初 帯 J)





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by byogakudo | 2016-11-21 16:48 | 読書ノート | Comments(0)


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