2016年 11月 24日

(2)獅子文六『コーヒーと恋愛』再読(?)・読了

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 写真は上野の博物館脇で。今日は大きな鯨の上にも、うっすら雪が
積っているかしら? この寒さの中で藝大 陳列館のパフォーマンス
行われるようだ。


~11月23日より続く

 読み終わっても再読なのか初読なのか不明。芸術家意識や
スノビスムをからかう姿勢が基本にある風俗小説であり、大人
の読者のために書かれている。

 8歳下の新劇至上主義の男が去ったヒロインと、妻を亡くして
独身を続ける"日本可否会"会長(彼女より8歳上)を結びつけよう
じゃないかと、"可否会"メンバーが画策する。ふたりともお互い、
嫌いではないけれど、中年者を結婚に踏み切らせるのは難しい。
 それぞれに慣れ親しんだ生活習慣もあることだし、彼女は自分で
稼げる女だ。仕事を辞めて家庭に入り、会長の希望する可否道(彼の
野望)・師範代になる決心がつかない。

 終りの方で、ヒロインは念願の"洋行"に旅立つ。元・事実婚の夫も
会長も、彼女のコーヒーを淹れる腕前にしか惚れてないことにうんざり
だし、初めて主役を得たTVドラマは失敗した。本場の(!)演劇に触れて
リセットしようと、羽田を立つ。

 サブカルチャーしか存在しなくなった今から見れば、信じられないような
純粋への意志だろうが、登場人物の誰もがみな、自分の夢と理想の追究に
熱心なあまり、日本人的・純粋への意志、すなわち、各部門で極道化する
ありようが、からかい気味に描かれる。相対化が必要ですよ、という教訓も
あるのだろう。
 今では絶体絶命的・相対化の意志しか見られなくなったが、ちょうどいい
按配で過ごすのが日本人には不向きなのかしらと、大雑把なことを考える。

 住いの様子を書き抜いておこう。

 ヒロインは、TVの売れっ子になる前、吉祥寺の家に住んでいた。
<五間ほどの小ザッパリした家>(p320)を売って、荻窪の<井荻に近い方>
(p112)のアパートに暮らす。

< そのアパートというのが、新築で、冷暖房つきで、間数(まかず)も三室が
 標準型だから、中央沿線としては、デラックスの方である。最近、地下鉄が
 開通したので、そんな投資も行われたのだろう。
 [略]
 いよいよ商売繁昌の折柄、交通と生活と、両方の便利を求めたからである。
  実際、今までの日本家屋とちがって、諸事、手数が掛からない。[略]
 今朝だって、ネグリジェの上に、ガウンを着ただけで、台所仕事ができる。>
(p9)

 彼女と別れた元・夫、塔之本勉が住むのは、
<吉祥寺といっても、練馬区に近い方に、ゴミゴミした家並みがあった。
 その横通りに、二軒長屋の二階屋があって、"編物教えます"と看板を
 出した玄関口が、いかにも貧相だが、それが勉君とアンナ[注:若い女優]
 の大家さんの家だった。
 [略]
  格子戸を開けると、狭い玄関があって、老未亡人の編物教室の居間に
 通じるのだが、そこへ入らずに、二階へ登る階段がある。恐らく、最初
 から、二階を貸間にする設計なのだろう。>(p320-321)

 1962年から'63年ころ。今の標準的住いである"マンション"と、絶滅した
(であろう)貸間が共存した時代である。

     (獅子文六『コーヒーと恋愛』 ちくま文庫 2015年10刷 J)  





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by byogakudo | 2016-11-24 17:01 | 読書ノート | Comments(0)


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