2016年 12月 14日

(2)ロバート・ブロック/福島正美 訳『サイコ』読了

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~12月7日より続く

 ノーマン・ベイツが肥って髪の薄い中年男であるという衝撃の設定以外は、
映画の記憶とかけ離れたものはない。かなり原作に忠実な映画化だと解る。

 小さな町の旧街道沿い、寂れたモーテルの経営者・ノーマンの愛読書などを
書き抜いておこう。

 ヴィクトル・W・フォン・ハーゲン『インカ帝国』(P8-9)、アインシュタインに
アリスター・クロウリーやアウスペンスキー(p128)、
< 『新しき宇宙』
  『意識の消滅』
  『西ヨーロッパにおける魔術』
  『次元と存在』
  [略]田舎のモーテルの主人の家に、置いてある種類の本でもなかった。
 ライラ[注:ノーマンに殺されたメアリ・クレインの妹]は、すばやく書棚全体
 をしらべた。異常心理学。神霊学。神知学。『ラ・バ』(J・K・ユイスマンス
 [一八四八〜一九〇七]の小説、黒ミサの描写で有名。『彼方』の邦題で邦訳
 あり]や『ジュスタン』[注:『ジュスティーヌ』?]の翻訳__。そして、書棚
 のいちばん下には、なんとも得体の知れない、題のついていない、装釘のわるい
 本が一かかえほど入っていた。ライラは手あたりしだい一冊を抜き取って開いて
 みた。そのページから、彼女の目の前に跳び出してきた挿絵は、ほとんど病的
 といっていいほど淫らなものだった。>(p227)

 同じ町の金物屋店主、殺されたメアリ・クレインと結婚する計画をもっていた
サム・ルーミスは、クラシック・ファンだ。FMラジオからオットリノ・レスピーギ
『ブラジルの印象』が聴こえてきて喜ぶ(p88)。
 大金を預かって行方不明になった姉・メアリを探しに金物屋に現れた妹、
ライラ・クレインはレコード会社勤めだ。ラジオの音楽を耳にして、

<「あの音楽、なんだったか思いだしているんです」彼女はうなずいた。
 「ヴィラ-ロボス(ブラジルの作曲家)かしら?」
  「レスピーギですよ。<ブラジルの印象>とかいうやつです。ユレイニア盤
 だと思うんだけど」
  「ああ。うちのお店には置いてないわ」そのときはじめて、ライラがレコード
 店で働いているのをサムは思いだした。>(p93-94)

 サムとライラは翌土曜日、姉の行方を探す私立探偵からの電話を待つ。

< ライラは気も落着いて、寛いでいる様子だった。ラジオのスウィッチを
 入れAMの交響楽番組にダイヤルをあわせて、恍惚として聞きいっている
 彼女をサムが見つけた[略]
  「バルトーク(ハンガリーの著名な作曲家)の<管弦楽のための協奏曲>じゃ
 ない?」と彼は訊いた。
  彼女は顔を上げると微笑んだ。「そうよ。でも、へんね、あなたが、そんなに
 音楽のこと知ってらっしゃるなんて」
  「それがどうして、そんなにへんかね。いまはハイ・ファイ時代だよ。小さな
 町に住んでいるからといって、音楽や本や芸術に興味を持てないということは
 ないんだ。[略]」>(p115)

 この後、サムは床に落ちていた一本の釘を拾い上げ、牧師の説教にも使えるし、
小説は揺るぎない細部の組み立てから成る、という説にも援用できる論を打つ。

< 「[略]なんの変哲もない釘だけれどね。だが、その一本たりとも、おろそか
 にはできないんだ。[略]
  一本一本の釘が、それぞれ、一つの役割を果しているからだ。[略]
 フェアヴェイル[注:彼やノーマンの住む町]の木造家屋の半分は、ぼくたちが
 ここで売った釘で支えられているんだよ。[略]
 ぼくが売った道具が板を削り、仕上げる。家を塗るペンキから、ペンキを塗る
 ブラシから、暴風雨用のドアやスクリーン。窓にいれるガラスにいたるまで
 ぼくの店で提供しているんだ__」[略]
  「[略]こんな一本の釘でさえ、その本分を果しているんだ。これを、ここと
 いう大切な場所へ一本打てば、安心してそれに頼って商売もできればなんでも
 できる、[略]」>(p116-117)

 いいというより、巧い小説。

     (ロバート・ブロック/福島正美 訳『サイコ』
     ハヤカワ文庫 1996年7刷 J)





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by byogakudo | 2016-12-14 21:20 | 読書ノート | Comments(0)


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