猫額洞の日々

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2016年 12月 20日

(2)デビッド・グーディス/井上一夫 訳『深夜特捜隊』読了

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~12月19日より続く

 ハードボイルドと(パルプ・)ノワールは別物なのかしら? そこらの
区別がつかなくて。どういう違いだろう?

 今まで読んできたハードボイルドあるいはノワールは大抵、ニュー
ヨークが舞台だったけれど、この本はグーディスの生地、フィラデル
フィアが舞台になってると解釈していいのかしら?

 読み終わってからweb地図でペンシルヴェニア州の地図を見て、
地図帳を買おうと思う。日本地図と世界地図、両方。
 地理もまた、わたしのヨワい点だが、主人公、コーリー・ブラド
フォード(汚職がばれて首になった、元・警官)の生まれ育った
土地が、

< この界隈はスワンプとして知られていた。大きな市の郊外にあり、
 三方が湿地で囲まれている。>(p18)__"スワンプ"って、南部に
あるだけじゃないのか?!
 地図を見ると、デラウェア川というのが流れているから、この近くの
湿地帯なのだろう、おそらく。

 スラムであり犯罪多発地帯である"スワンプ"を支配するボスに見込ま
れたコーリーが、市の上流階級に成り上がったボスの車で市街地に行く。

<北に向かう車の列がだんだんまばらになってくる。住宅地にはいって、
 通りには金のかかったアパートがずらりとならぶ。やがて市営公園の
 みどり一色になり、独立戦争の将軍たちの銅像。[略]なかのひとりは
 剣をふりかざしている。その像の台座で、剣のかげに黒ん坊の爺さんが
 草をしとねにのどかに眠っていた。ハイウェイをさらに北に行き、公園を
 河岸側でぬけると、水族館が見えてくる。さらにギリシャのパンテノン
 [注:ママ]に似たデザインの巨大な美術館。市が三千万ドルばかりも
 かけて作ったものだが、これが鳩の巣や、夜になってこの大理石柱の
 迷路でかくれん坊をしにくる九歳の子供たちの群れにおもにお役に立って
 いる。>(p131-132)

 物語全体が、光と影のコントラストの激しい構造だが、光の領域と影の地帯
とが別々に在るのではなく、都市や身体という、ひとつずつの独立した有機体の
中に、光と影が同時に宿る状況を描く。

 主人公が、やけ酒に溺れ込もうとするといつも、警官だったときの倫理観が、
今の彼を批判する声(警官バッジの形をとる)として聞こえてくる。それだけで
なく、赤ん坊のとき、ネズミに噛まれた(!)鼠蹊部が痛む。
 (昨日、"野良犬"に例えたけれど、作中では自分たちを"野良猫"視している。)

 あとは、『フォカス氏』と同じく、不吉な緑色が目につくところか。
 ボスの女、リタ(典型的な悪女)は、

<プラチナ・ブロンドの髪はちょっと乱れただけで、濃いグリーンの目は、
 黄みどりに光る小さな懐中電灯のようだった。胴をむきだしにしたツー
 ピースを着ている。うすいグリーンの絹の胸当てとトレアドール・パンツ
 だった。>(p108)と描かれ、風景もまた、緑は不穏である。

< インガソール街は路地に毛のはえたような通りで、[略]六○○番地の
 次は湿地になっている。みどりがかった湿地の水が、いつもインガソール
 の家々の地下にしみこんでいた。通りにはゆるんだ敷石の間から雑草が
 生えている。湿地の沼気(しょうき)がリボンのようにみどりがかったもや
 となり、インガソールの屋根々々の上に渦を巻いてただよい、ときには、
 するすると一階の窓をかすめておりてくることもある。二階建ての木造家
 はペンキがほとんど残っていないか、全然はげてしまっているかで、これも
 沼気にむしばまれてしまったのだった。インガソールを支配する色は、
 湿地のみどりがかったグレイだった。>(p159)


     (デビッド・グーディス/井上一夫 訳『深夜特捜隊』
     創元推理文庫 1967初 J)





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by byogakudo | 2016-12-20 21:38 | 読書ノート | Comments(0)


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