2016年 12月 29日

(3)北村薫 編/鮎川哲也[短編傑作選]2『下り"はつかり"』読了

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~12月28日より続く

 神田猿楽町の焼跡のビルから、ようやく屍体が発見されたが、
頭部が切断されていた。頭は、

< 青梅(おうめ)市から埼玉県飯能(はんのう)行のバスにのって
 二十分ほど来ると、岩蔵(いわくら)という字(あざ)につく。奥多摩
 の山々を北にひかえて武蔵野平野がはじまるところ、鉱泉がわき
 二、三の旅館もあって、ひなびた静かな場所である。>(p332)
__そこで発見される。農夫の連れた犬、ポチが鳴いて知らせた。

 歯型を照合した歯科医師のカルテにより、屍体の頭部の持主が
判明する。

<   茅ヶ崎(ちがさき)市南湖(なんご)一九九八三
    烏田(からすだ)完一  四十七歳   >(p334)であった。
"南湖"! 6月29日に見に行った南湖院(なんこいん)のある土地だ!

< とにかく被害者の自宅を捜索する必要があるので鬼貫は刑事と
 鑑識課員を帯同して東海道をはしり、茅ヶ崎へ向かった。
 [略]
  鬼貫は、ゆくりなくも田山花袋の随筆『独歩の死』を思いだしていた。
 明治四十二年の早春からこの地の南湖院で療養生活をはじめた独歩は、
 しばしば花袋の見舞をうけたのである。
  "停車場を下りて、昔の宿場の名残の残っている町を通って、それから
 汽車の踏切を越えると、ポプラで囲まれた小学校があった"という小学校は、
 半世紀の歳月をけみしたいまも町の通りの右手に建っていた。しかし当時は
 松原があり富士がのぞめたというこのあたりも現在では商家がすっかりたち
 ならび、そのかみの面影を一変している。ケバケバしい色彩のショートパンツ
 をはいて颯爽と自転車をとばしてくる若い女性をみると、この同じ道を友の
 病をうれいながら重たい歩をはこんだ花袋の姿を想像することは容易なわざ
 でなかった。>(p335-336)

 がっしりした本格派ミステリ作家というイメージだったけれど、『地虫』や
『絵のない絵本』など、佐藤春夫みたような感触もあったし、『他殺にして
くれ』は、日本でもハードボイルドな私立探偵が存在できるのを実証している。
エンディングの、ビフテキ(比喩)とおでん(事物)のコントラストがすてき。


     (北村薫 編/鮎川哲也[短編傑作選]2『下り"はつかり"』
     創元推理文庫 1999初 J)





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by byogakudo | 2016-12-29 20:22 | 読書ノート | Comments(0)


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