2017年 01月 11日
全253ページの厚くはない一冊の文庫本中に、ド・ラ・ボエシの古典 『自発的隷従論』(と、読み飛ばしてもよいと書かれているが、丁寧な 人名・神名の注と訳注に参考文献付き。翻訳者・解題もある)、『自発的 隷従論』に触発されて書かれたシモーヌ・ヴェイユ『服従と自由について の省察』とピエール・クラストル『自由、災難、名づけえぬ存在』の翻訳 の前後に監修者・西谷修の解説、巻末に翻訳者・山上浩嗣のあとがき、と フル装備(?!)で完璧な編集である。 エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ(1530-1563年)。『自発的隷従論』は、 カトリックとプロテスタンが争う宗教改革の時代に書かれた、支配と隷従の 構造分析だ。 自然状態に於いて自由であり、それを好む筈の人間がなぜ、ひとりの 或いは少数の支配者の下、隷属状態に甘んずるのか。 それは、 <人間においては、教育と習慣によって身につくあらゆることがらが 自然と化す>(p043)からだ。 先祖たちも圧政者に隷従してきたので、彼らは隷従が自然で普通の 状態だと信じ込んでしまい、それ以外の生存の形を想像できない。 隷従する者が続くから、圧政はいつまでも終わらない。隷従する民衆 が好んで圧政を支えているかに見える。 圧政者は、手を替え品を替え、権力の持続を図る。支配下の民衆に サーカスを見せる。パンを与える。忠誠を誓う者には称号も授けよう。 民衆の前に顔を出すときは、人間離れした仮面の姿で現れる。宗教心 も利用する...。 そして権力を掌握しきった挙句、自分の周りには暗殺者しかいないのでは ないかと疑心暗鬼に陥り、圧政者は自由を喪う。隷従する民衆と同じように。 支配と隷従の構造は、ファイルとフォルダのピラミッドだ。ひとりの圧政者 の周囲に数名の取り巻きがいる。トップ・ファイルでありトップ・フォルダだ。 数名の(各ファイルの)下に、おこぼれを頂戴しようとする下位のファイルと フォルダが連続的に広がる。 <結局のところ、圧政から利益を得ているであろう者が、自由を心地よく 感じる者と、ほとんど同じ数だけ存在するようになる。>(p067-068) ミニ圧政者の群れは、みな、いまの地位を喪う事態がくることに脅え続ける。 彼らもまた自由を喪っている。 ド・ラ・ボエシはプロテスタンの言い分にも耳を傾けるカトリックだ。 彼は、神の自然である自由と平等と友愛の関係について語る。 <神のしもべで人間の支配者たる自然が、われわれがみな互いを 仲間として、というよりはむしろ兄弟として認識しあえるように、 全員を同じかたちに、同じ型(かた)をもちいて__と思われる ほどだ__作った> 各人のたとえば能力差については、 <ある者には大きな分け前を、ある者には小さな分け前を与える ことによって、自然は兄弟愛を生じさせようとしたのだ。そして、 ある者が人を助ける力をもち、ある者がそれを受け取る必要が ある状況で、兄弟愛が行使されることを望んだのである。>(p026) 古典のもつ普遍性・透過性ってすごいんだなと、阿呆な感想だ けれど、 < 圧政者には、三つの種類がある。ある者たちは民衆の選挙に よって、ある者たちは武力によって、そしてある者たちは家系の 相続によって、それぞれ王国を所有している。>(p031) __なぞという言葉が、16世紀の半ばに書かれたなんて。 (エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ/西谷修 監修・山上浩嗣 訳 『自発的隷従論』 ちくま学芸文庫 2015年5刷 J)
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by byogakudo
| 2017-01-11 22:15
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