猫額洞の日々

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2017年 01月 14日

(2)鳥飼否宇『昆虫探偵 シロコパκ(カッパ)氏の華麗なる推理』読了

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~1月12日より続く

 『前口上』で、ヒトがヤマトゴキブリに変身してミステリを綴る
構成なのだ、と宣言する。この前提を了承しないと話が始まらない。
強引に読者を小説世界に引きずり込んで、擬人化されたさまざまな
昆虫が、クマバチ所長+ゴキブリ助手の探偵事務所に難問を持ち込み、
昆虫探偵事務所と兵隊アリの刑事が、謎解きのための仮説と検証の
やりとりをする、七つの連作短篇ミステリが開始される。(強引さは
随所に発揮され、話の方向を決定する。)
 『後口上』もついていて、これまでの展開がきれいに回収される。
幾何学的構成がすてき。

 前後の口上にも各短篇ミステリにも、それぞれ日本の本格ミステリ
からの一行が、キャッチコピー的に使われる。たとえば『第一話 蝶々
殺蛾(さつじん)事件』には、横溝正史『蝶々殺人事件』から引用される。
これは読んだような気がするのに覚えていないし、他のミステリはどれも
未読。従ってどんなフレーズにも反応できないのが残念だ。
 読んでなくとも、昆虫の生態・行動に即した謎と謎解きの物語に支障は
ない。『第五話 生けるアカハネの死』の擬態の解説なぞ、とても楽しい。

 補食される側(人間的に言えば被害者側)のとる擬態として、毒性を
アピールする方法がある。
 "ミュラー型擬態"は、
<警告色をより効果的に外敵に印象づけるために、毒を持つ互いの種が
 なるべく同じような色彩パターンに収斂(しゅうれん)する現象>。
 "ベイツ型擬態"は、
<自分は毒を持っていないのに、毒を持つ生物の警告信号だけを真似る>。
 これらより一般的なのが、
<警告色とは反対に、体の色を周囲の環境の色に同調させるのが保護色。
 そして保護色をまとって環境の中に溶け込む技術が隠蔽的擬態>
(p229-230)など。

 擬態について考えていた元ヒト・現ヤマトゴキブリの話者は、さらに
思考を進める。

< 朝方のアカハネムシはベイツ型擬態のほかに擬死で危険を回避しよう
 としていた。考えてみれば、擬死も擬態の一種なのかもしれない。自らの
 死体に化けるのだ。死体は死という観念を具象化した物体だろう。とすれば、
 擬死は死という観念に擬態する行為といえるかもしれない。生ける屍
 (リビング・デッド)ならぬ、死せる生虫(ダイイング・ライフ)__思いのほか
 深遠な戦術なのだ。>(p231)

 そして元ヒトだったとき読んだ、山口雅也『生ける屍の死』を思い出す。
<死者が生き返る仮想世界での殺人の意味を論理的に解明した大傑作だ。
 準(なぞら)えるなら、今回の事件は擬態者(ミミック)が殺される世界で
 擬態の意味を問い直す試みといえるかもしれない。>(p231)
 『生ける屍の死』、読んでみようかな。

 難問を持ち込む昆虫たちの名前は、ほとんど駄洒落に基づく。
<「ボクの名前はC・オチュス4578(ロクデナシ)」>(p73)のように。
 駄洒落は方向指示器みたようなものだろうか、こういうツイッター
あることだし。


     (鳥飼否宇『昆虫探偵 シロコパκ(カッパ)氏の華麗なる推理』
     光文社文庫 2005初 帯 J)





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by byogakudo | 2017-01-14 20:54 | 読書ノート | Comments(0)


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