2017年 02月 20日
小説に代表される文学作品もまた、商品として流通するモノ であることが露わな近頃、斎藤美奈子は、小説に用いられる アイテム__服やファッション、カタログ化・ブランド化、 食べ物、ホテル、バンド、オートバイ、野球、そして貧乏__ を取り出して、文学作品を考察する。真正面から表層を見る。 身も蓋もなく、ともいえるが。 < 二〇世紀は、そもそも装飾性から機能性へと、衣服の役割が 大きく変化した時代でした。[略] ことばからも装飾性が削ぎ落とされていきました。美文、技巧、 大げさな比喩、描写過多、ことばの綾。凝りすぎたレトリックが 「悪文」として槍玉にあげられるのは、二〇世紀に特徴的な文章 イデオロギーです。 [略] 服も文もシンプル・イズ・ベスト。キンキラキンなのは嫌われる。 日本の場合はこれが「内面重視」の(日本でいう)自然主義文学と 結びついて、基本的には今までずっと続いてきたといってもいい でしょう。(外面を取り繕う)服の描写なんぞにウツツを抜かして いないで、「人間の内面性」をきっちり描きなさい。現代の青春 小説といえども、そうした歴史的呪縛から完全に自由とはいえない のかもしれません。> (p20-21『第1章 アパレル泣かせの青春小説) <企画が先にあって、後で作品(のようなもの)をつけていくやり方を 「コンセプト・ワーク」といいます。小説にも、このような連作形式 で書かれたものがたくさんあります。「カタログ小説」とでも申しま しょうか。 [略] カタログ小説が盛んに書かれるようになったのは、八〇年代以降の 傾向です。背景には、雑誌文化に加えて、広告代理店文化の興隆が あるように思われます。代理店の仕事が「文化」かどうかは意見の 分かれるところでしょうが、ある時期以降の広告代理店は、モノそれ 自体に「物語」を見つけようと躍起になってきました。モノの「性能」 ではなく「物語」に投資する、八〇年代以降の消費者動向は、その ように変わってきたからです。> (p75-76『第3章 広告代理店式カタログ小説』) いまでは記号(ブランド商品)さえ身につけていれば、他人(ひと)は 勝手に記号の背後に連なる物語を解読してくれ、それを身にまとう "わたし"も、その物語の線上に在ると見なされる、と本人は(少なく とも本人だけは)信じているようだ。うっとうしくも。 軽やかに記号の戯れを続けながら、最後の章に至る。 日本の「私小説」や「プロレタリア文学」を"元祖貧乏小説"と まとめ、これらは、 <「知識階級=インテリゲンチャの貧乏小説」なのです。 自分自身をモデルにした私小説の場合、主人公は必ず作家か、 または作家志望者です。家を追い出され、子どもをつれて街を さまようことになっても、書きかけの原稿は後生大事に抱えて いる主人公。これが「インテリ貧乏」でなくてなんでしょう。 一方、プロレタリア文学は、登場人物たちは底辺労働者でも、 物語の表舞台には姿をあらわさない語り手がインテリです。> (p255-256)と、自明すぎて見落としやすい事柄を指摘し、 < 日本が誇る貧乏ノンフィクションの多くは、知識階級の人々が 使命感にかられて書いたものでした。それらが貴重な社会史の 資料であることに変わりはありませんが、しかしそこに描き出さ れたのは「彼らの貧乏」です。一方、一人称小説、または三人称一元 小説(ノンフィクションでも同じことです)が描くのは「私の貧乏」 です。書くことでも読むことでも、あらゆる知的な作業には、人間の 尊厳を取り戻す力がある。 [略] 貧乏小説だけではありません。獄中記も闘病記も女学生の失恋日記も みんなそう。 そうなんです。残念ながら、ここは率直に認めなくてはなりません。 人はパンのみに生きるにあらず、なのです。 ただし、書かれたものが人の心に訴えるかどうかはまた別の話です。 [注:松井計の]『ホームレス作家』が読む人の心を動かすとしたら、 「事実の重み」ゆえではなく、「事実の抽出」に優れているからです。 そして、優れた作品は、必ず「パンの描き方」に秀でています。> (p276-277『第9章 平成不況下の貧乏小説』)と、きっちり結ばれる。 (斎藤美奈子『文学的商品学』 文春文庫 2008初 J) 呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/ ひとりよがりの野良ブログ空間を死守すべく、連中が退出する まで、コールを続ける。コピー&ペーストに、どれほどの呪力が あるものか、という疑問はあるけれど。
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by byogakudo
| 2017-02-20 22:17
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