猫額洞の日々

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2017年 03月 11日

イスレール・ザングウィル/長谷川修二 訳『ボウ町の怪事件』読了

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 店にあったっけ、なかったっけ、と思いながら買って読んで
みたら、これはとても好きだ! え、1891年に刊行された?!
 驚くべきモダーンさだ。密室殺人ものであり、名探偵ふたりの
推理対決であり、かつ風俗描写が楽しめる、イギリス文体のミス
テリ。

 "イギリス文体"と呼ぶのは、たとえば、殺された男の家主である
ドラブダンプ夫人の描写、

< ドラブダンプ夫人は後家であった。後家に生まれついた者はなく、
 誰も中途からなるのだが、これを知らないと、ドラブダンプ夫人は
 生まれつき後家ではなかろうかと想像する人もいよう。お定まりの
 長身、痩躯(そうく)、例の青ざめた、くちびるの薄い、細面(ほそ
 おもて)の、鋭い目つきに、かてて加えて、例のいやにきちょうめん
 に結んだ髪といった、下層の後家の百相ことごとくそなわっている
 のだ。亭主をなくしても依然として巧笑倩(せん)たりなどというのは、
 上流の上にだけ見られる女の定めなのである。>(p7)

 さんざんに言われているが、彼女はなかなか癖があって、すてきなの
である。
 新進・名探偵が雨の日曜日の午後、殺された男が眠る墓地に行って
みると、

<灰色のショールをかけ、とび色の帽子をかぶった女が、区画された
 一基の墓の前に立っている。彼女はかさを持っていない。雨は痛ましく
 彼女の上に落ちかかるが、すでにぬれた女の服には雨の跡さえつかない。>
(p100)__ドラブダンプ夫人であった。

< 「でも、あなたはこんなみじめなところになんのために来たのですか?
 お宅から遠いのに」探偵が質問した。
  「休日ですもの」ドラブダンプ夫人はひどく驚いたような調子で教えた。
 「休日には、私はいつも散策に出るんですのよ」>(p101)

 殺された男、アーサ・コンスタントは、わざわざ下層階級であるドラブ
ダンプ夫人の下宿に住まう。労働者の救済のために情熱を燃やす男だった
が、家主には彼の思いなんぞ伝わらない。

<手は白く、シャツも白く、財力の点でさえ紳士階級に属するくせに__
 なぜ電車の車掌のことに頭をわずらわさなければならないのか、ドラブ
 ダンプ夫人には全くわけがわからなかった。
 [略]
 ことによると、このボウ町から議会に出る抱負をもっているのかもしれない。
 が、それなら亭主持ちの下宿に住めば一票得をするからそのほうが賢明で
 あろうに。>(p9)
__女性参政権以前の物語だ! 男の労働者階級では労働運動の気運が
高まっていて、労働者自身の中からも組合運動専従者が出てきたり、上流
階級からもアーサ・コンスタントのような男が出てくる。

 アーサ・コンスタントは自分で靴を磨く男であるが、

<ボウの労働者は、あんなに水をたっぷり使わない。飲料にも、朝の
 洗面にも、それから洗濯屋(せんたくや)の店でさえも。それから、
 労働者たちはドラブダンプ夫人の出すごちそうを彼のように当然の
 ような顔をして食べない。
 [略]
 アーサ・コンスタントは口をあけて、彼女の与えるものを食べる。
 お定まりのとおりに、わざと目をつむってみたりせずに、かえって
 大きく見開いているのが得意らしい。しかし聖者が自分の光輪の奥
 を見るのは至難のことであろう。実際には、頭の上の光輪はしばしば
 霧と区別しがたい。>(p10)

 下層階級と同じ地域に暮らし、同じ食事をとるアーサ・コンスタント
だが、朝の紅茶はかつてと同じものを喫している。

 
     (イスレール・ザングウィル/長谷川修二 訳『ボウ町の怪事件』
     創元推理文庫 1961年5版 裸本)

 今日の午後は東松原へ行った。古書 瀧堂で4冊。
 マイケル・ペピアット/夏目幸子 訳『フランシス・ベイコン』(新潮社)、
大阪圭吉『とむらい機関車』(創元推理文庫)、小林信彦『回想の江戸川
乱歩』(文春文庫)、「海野十三敗戦日記』(中公文庫BIBLIO)。



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/

 安倍首相の3・11会見打ち切り=震災6年で「節目越えた」
棄民したい、ということだろう。させるものか。

 森友問題の原点 安倍・松井・籠池を結びつけた団体の正体
ここをTVと新聞で大きく報じれば、右側を止められる。





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by byogakudo | 2017-03-11 20:56 | 読書ノート | Comments(0)


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