猫額洞の日々

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2017年 05月 31日

(1)谷崎潤一郎『潤一郎ラビリンス II マゾヒズム小説集』を読み出す

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 最後の二篇、『赤い屋根』と「日本に於けるクリップン事件』を
読んでみて、何にも覚えていないことだけは分かった。『赤い屋根』
が『痴人の愛』のスピンオフみたい、なんてこともまるで記憶にない。
 ヤになっちゃう。

 最初の『饒太郎』に戻る。初出は「中央公論」1914年9月号。
 耽美派の新進作家、泉饒太郎は深川に住む。庭付き戸建てである。
彼は目下スランプらしい。

<わりに人気(ひとけ)のない邸内の庭は晝も夜も深閑として、点滴の
 したゝるように間断なく啼きしきる小禽の声を別にすれば、何処
 やらの工場の機械の音が、遠く幽かに耳に入るだけである。ちん、
 ちん、.........と、地袋の上の置時計が二時を打って、オルゴオルの
 不思議な音楽が一としきり鳴り続いたあとは、再び沈黙が室内を
 占領して、東京の深川という大都の一隅とは考えられない静かさに
 支配される。>(p10)

 江戸から続く水の町(であっただろう)深川と、1910年代・東京の
工場地帯である深川とが、同時に存在している。

 若い男の友人が訪ねてきて、饒太郎は子ども時代を思い出す。

<丁度十二三歳の少年の時分、四五月頃の暖い慵い季候になると、
 彼は屢々友達を誘って学校の帰りに丸の内の原っぱへ遊びに行った
 事がある。其処には今と違って立派な建築も公園もなく、雑草が茫々
 と生い茂って菫だの苜蓿(うまごやし)だのが一面に咲き乱れ、ところ
 どころ[注:原文は踊り字]に涼しそうな緑蔭の丘があったり池があっ
 たりした。>(p17-18)

 三菱村・時代の丸の内風景である。多少は読んだり、大いに歩いたり
してきたので、20世紀初めの深川も丸の内も想像できるようになった、
と思う。


     (谷崎潤一郎『潤一郎ラビリンス II マゾヒズム小説集』
     中公文庫 1998初 J)

6月1日へ続く~



呪 吐爛腐/呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/





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by byogakudo | 2017-05-31 23:09 | 読書ノート | Comments(0)


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