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猫額洞の日々

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2017年 06月 22日

(1)ドロシイ・セイヤーズ/松下祥子 訳『箱の中の書類』半分弱

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 ウィルキー・コリンズ『月長石』の1930年代版、みたような
ミステリだ。
 おそらく殺人事件に至るであろう状況の関係者が、事件以前に
関係者あるいは無関係な人々に宛てて書いた手紙と、事件が起き、
終息した(であろう)時に、関係者であり資料編纂者である人物
から求められて書いた手記、が時系列で配置される。

 読者は少しずつ状況を理解して行く仕組みだ。倒叙ミステリで
ない限り、ミステリは大体そうだけれど、つまり、作者が話者と
なって状況を述べる書き方ではない、と言いたかった。
 読者は次々に現れる資料を読みながら、何かが起りそうな状況を
思い浮かべてゆくドキュメンタリ風ミステリである。

 半分近く来たのに、未だ、事件以前というのか未満というのか、
表面的には大したことは起きていない。

 1920年代後期のロンドン郊外。中年の夫はミドルクラスの上層、
20歳以上若い後妻は夫よりは下の階級である夫婦と、彼女に付き
添う家政婦が、戸建てに住んでいる。その二階に、若い絵描きと
作家が下宿してきた。ふたりは階級的には夫の方と近そうだ。
 イギリスの小説や映画では、登場人物の階級を一応分かってないと
話が読めない。上記の階級に関して、確信も皮膚感覚的理解もない
けれど、記号的に、たぶんそうであろうというところで読んでいる。

 長い長いヴィクトリア朝が終わっても建物は残る。登場人物たちが
暮らすのも
<ヴィクトリア朝中期のやたらと背の高い建物>(p24下段)である。
 人々のものの考え方にも堅苦しさが残るが、しかし時代は変わる。
フロイトとアインシュタインの時代が来ている。近代の到来だ。

 知的なミドルクラスではモダーンの潮流から目を離せない。電気
技師(モダーン!)である夫は趣味で絵を描くので、下宿人である
若い絵描きに助言を求める。
 軽薄な(ボヴァリー夫人タイプ?)後妻は、新しいものに目がない。
新思潮、新傾向と見える動きには何でも知ったかぶりの口を挟む。
 モダーニズムには新しい女性像も含まれるから、彼女は夫が自分を
理解してくれないと、観念的かつ強固に嘆く。

 フロイトの影響はすでに決定的だ。後妻付きの家政婦は神経症で
精神科に通っている。彼女が書く手紙の滑稽さは、『月長石』の
何とかいう老嬢の手記の愚かしさと呼応する(だろう。読み返して
ないので、頼りない記憶で書いている)。
 後妻と若い絵描きが浮気ないし真実の愛に目覚めるところまで来た。
殺人まであと一歩であろう。


     (ドロシイ・セイヤーズ/松下祥子 訳『箱の中の書類』
     HPB 2004再 VJ)

6月23日に続く~


 今日は阿佐ヶ谷、千章堂書店・店頭で久生十蘭『パノラマニア十蘭』
(河出文庫)。湿気が強くて、くたびれた。




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by byogakudo | 2017-06-22 21:04 | 読書ノート | Comments(0)


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