2017年 06月 26日
~6月11日より続く 資本主義には、その構造上、貧富の差がつきまとう。 少数の誰かが勝てば、大多数の"敗者"(とまでは行かない としても、順々に階層差異のある大衆)が出現する。 貧困層を放っておくと、恨みつらみが重なり、社会不安 が増大する。持てる側も寝覚めが悪いって意識を、クリス チャンでなくても感じるだろう。もし資本主義社会を維持 してゆきたいのなら、緩和材が必要だ。 広く見れば、社会保障制度だが、話を住宅に限れば、会社 だったら、たとえば三菱の福利厚生としての軍艦島の労働者 用・集合住宅。フランクフルトやウィーン、アムステルダムの 行政府による低所得者用・集合住宅団地(その影響で作られた 同潤会アパートメント)、キリスト教の慈善意識に発する、 ロスチャイルド財団などのパリ郊外の集合住宅団地等々がある。 著者はそれらを実地に訪れ、考察する。ヨーロッパで20世紀 初めに構想され、建てられた集合住宅団地(ジードルンク)が 現在も残っているのか、使われているのか。 ヨーロッパに於いては住み手が変わり、新たな低所得者層で ある移民たちの住居になったりもしているが、1920-30年代 に作られた集合住宅が現役で使われている。愛されて住まわれ ている。 外からやってきた観察者である松葉一清にも住民が誇らしげに、 あそこは見たか、ここは見たか、と聞いてくる。 <街路で囲まれた都市のなかのひとつの区画を「タウンブロック」 と呼ぶ。そのタウンブロックを複数まとめてひとつの敷地として 扱うのが「スーパーブロック」である>(p105) そうだが、この複数ブロックの集合により、中庭が出現する。 ウィーンの集合住宅団地、「カール・マルクス・ホフ」等を 例に上げて__ <ウィーンにおいて驚くのは、中庭を閉ざしているところはどこ にもなかったことだ。パリなどでは昔の写真では解放されていて 都市の街頭とつながっていたはずの集合住宅の多くがゲートを 閉め切ってしまっている。物騒な世相だから、無理からぬこと なのだが、建築家や設置者である公共体の開かれた都市住居 という初志は断ち切られつつある。 [略] ドイツの集合住宅の多くは[略]敷地内に園芸や家庭菜園のための 小土地が住民のために確保されている。[略]住民たちは近隣と 競い合うように、芝生を植え、子どもの遊具も置いて、賃貸住宅で ありながらあたかも「小土地所有者」の感覚を持つことができる。 一方、ウィーンの住民は、敷地内の屋外空間のほとんどすべてが 公共として扱われているために、そのような「持てる階級」の幻想 を初めから抱けないようになっている。 [略] ウィーンの社会民主党市政と建築家たちは、共有空間のスケール 感を住民全員で共有する、つまり、集住しているがゆえに味わえる 「スーパーブロック」にこだわったと見なせよう。それはまた集合 住宅を教材とする、労働者階層の都市居住の「行儀」を啓蒙する 選択であり、そのことが功を奏した結果を、わたしは実感する。> (p120-121『第3章 赤いウィーン』) 居は気を移すってフレーズもある。いまは慣れたが、住宅地の中の アパートメントに越してきた当初、三階建て・戸建て住宅(1階は必ず 駐車場)が並ぶ近所を歩く度に、プチブル的所有の観念が伝わって きて居心地悪かった。 戸建て信仰は、戦後、お金がなかった政府が"持ち家政策"を進めた せいだろうか。八田利也『現代建築愚作論』(日本のビート文学でも ある)を買い直して読もうかな。 それはともかく、YouTubeやTwitterを見ていると"共有する"って、 よく出てくる。資本の支配下で共有させられること、だろうか? 私有しないことが即、開かれた共有になる訳ではない。 日本のジードルンク(?)、同潤会アパートメントは使われた素材の 問題や、メインテナンス(本書の表記は"メインテナンス"!)意識の 欠如により、そして日本の土地本位制により(これがいちばんの理由 ではないだろうか?)、すべて壊された。 日々、廃墟化が進む、生きている廃墟・軍艦島が残った、残っている。 ジードルンクを訪ねるヨーロッパ・ツアーがあるなら、ぜひ参加したい と思わせる一冊だ。 (松葉一清『集合住宅__二〇世紀のユートピア』 ちくま新書 2016初 帯 J) 6月27日に続く~ 呪 吐爛腐/呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/
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by byogakudo
| 2017-06-26 22:56
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