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猫額洞の日々

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2017年 07月 14日

(2)久生十蘭『十蘭万華鏡』まだまだ

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~7月12日より続く

 昨日の古書サンカクヤマに久生十蘭『内地へよろしく』もあったの
だけれど、ちょっと戦争物に疲れていて、パスした。

 と言いつつ、『花合せ』を実用書として読んでしまう。第二次大戦末期、
もう頻繁に空襲があるのに、うつくしい花壇を作ったり、戦前に買い置き
したフォアグラなんぞを毎日、食卓に乗せたりしているブルジョア男女の
物語だ。

 女は自然であり、男は人工だ。女は戦時下という状況が分かっていても、
自分の欲望に忠実である。男は、自分の好きなもの、好きな世界があるが、
周囲の目に過敏になる。

 戸口調査にやってきた巡査から、花壇の花が西洋種の花ばかりだと
指摘されると、
<西洋の花ばかりというひと言が耳についてその日いち日離れなかった。
 サイパンの失陥以来、「自由な頭(リーブル・パンスウル)」というものの
 詮議がはげしくなり、友人の音楽ずきが四五人、毎週集ってレコードの
 鑑賞をやっていたら、これが一網打尽となって念入りに頭の検査をされた。
 そのうちのひとりが理屈をいったが、取調べの警部に、
  「生意気をいうな。日本が法治国だなどと思ったらたいへんなまちがい
 だぜ。ひとつ、やってみるか」
  と、おどかされ、震えあがって十年前のくだらない恋愛事件まであらい
 ざらいもうしあげてしまったということだった。>(p153-154)

< 日本を出来るだけみすぼらしくしようという傾向の中で、花でも咲かせ、
 とぼけてみるのも面白いとかんがえぬでもなかったが、とてもそれどころの
 騒ぎではなくなった。>(p157)

 花壇の草花を引っこ抜き、南瓜の苗を買ってきて植えた。花が咲いたら、
雄花の花粉を雌花にぬりつける・花合せをしたら実が生る、と教えられる。

 南瓜の苗を買った帰りに、戦前(1933年)の夏に知っていた少女、いまは
27歳になった若い女性(結婚してすぐに夫は死亡)と再会して、まるで
最後の晩餐的美食をふるまわれる。毎日、馬鹿げて豪奢な食卓になる
のは、亡夫のストックのせいである。彼女はお米しか配給をもらわない。

 彼はペルノーに酔っぱらって忘れていたが、南瓜を植えろ、花合せしよう
と言われた彼女は南瓜を植え、花が咲いたので彼に電話する。訪ねると、
彼女は温室を壊して四阿(あずまや)を作らせていた。

< 「それにしても、えらい落着きかただな。今日にも焼かれてしまうかも
 しれないのに」
  「だって、一日でも生活は生活でしょう。戦争の邪魔にさえならなければ、
 じぶんのいちばんいい生活をするのがほんとうだと思うわ」
  「あなたのいい生活って、どんなことをいうんですか」
 [略]
  「人間自然の法則にしたがう生活よ」
 [略]
  「したいことをするのがいい生活ってのは、あまり単純すぎやしないですか」
  と出鱈目なことをいうと、[略]
  「そんなことではないのよ。この戦争で日本が勝ったら、あたしたちのような
 金利生活者は根こそぎ絶やされてしまうでしょう。それだって、日本が負けて
 くれればいいなんていちども考えたことはなくってよ。どんなことをしても勝た
 なくてはならないけど、戦争の奴隷にだけはならない、自分というものの最後の
 一分だけは絶対にゆずらないという意味なの」
  馬鹿にならなければ生かしてはおかないいまの日本で、[略]
 なんでもよくわかる頭というのがいちばん危険なので、>(p171-172)

__彼は彼女への恋心が冷める。

 彼女から踊りを誘われる。

<釣られて[略]肩を抱いて踊りだしたが、そのうちに、もしこんなところへ
 憲兵にでも踏みこまれたらどんなことになるかとかんがえたとたん、右足が
 ぎくとひきつって棒のように硬直してしまい、動かそうとしてもどうしても動か
 なかった。[略]
 腕をふりといて椅子に沈みこむと、国民を奴隷にするために、十重二十重に
 掛け廻した武断派(ミリタント)の罠の凄さが、[略]
 ようやくぼんやりとわかりかけてきた。[略]
 以前は、楽しむべきものを楽しむことにおいてはけっして人後におちはしな
 かったが、いまはもう、自分の欲する楽しみさえ自由にとることが出来なく
 なっているのに気がついた。たしかに不具にされてしまったと思うのだが、
 さて、どこを不具にされたのかよくわからなかった。>(p172-173)

 彼が南瓜と言われて買ってきた苗は、南瓜ではなく瓢簞だったという
皮肉で悲惨で滑稽なエンディングである。

 巻末の『初出誌一覧/底本一覧』によれば『花合せ』は、
<『婦人文庫』46.5/『巴里の雨』出帆社、74.12>。戦後すぐに書かれた
のか。戦中だったら、発禁だろう。

 戦後間もない、1946年当時の読者に反感を抱かせない、バランスの
とれて、うまい短篇を、つい戦時下心得の実用書的に読んでしまうのが、
貧乏くさくて情けないじゃないか。誰のせいだ。


     (久生十蘭『十蘭万華鏡』 河出文庫 2011初 J)

7月15日に続く~



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by byogakudo | 2017-07-14 16:28 | 読書ノート | Comments(0)


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