猫額洞の日々

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2017年 09月 07日

シーリア・フレムリン/直良和美 訳『泣き声は聞こえない』読了

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 イギリスでの原作刊行は1980年。

 思いがけない妊娠をしてしまった14歳の少女・ミランダが家出する。
家出の理由が、大人は分かってくれないではなくて、両親ともにリベラル
(父親は労働党の役員か何か)過ぎて却って息が詰まる、というか、まあ、
そんな感じ(ユーマ・サーマンの育った家庭があまりにリベラルなので、
反抗期の自己表現として、チア・リーダーになることしか選択肢がなか
った話も思い出す)。

 リベラリズムが限界に達し、サッチャリズムの時代が始まりつつあるが、
まだ福祉国家の意識の方が強い。そういう時代状況を反映して、家出した
少女を救ってくれるのは、共同生活を実践している若い医学生だ。
<「ぼくといっしょに、先祖代々の古い家に来ないかい? 別名スクワット
 っていうんだけど。[略]」>(p75)

 医学生の行動では、彼も手帖ではなく、封筒にノートする派!だ。
< ポケットから、使用済みの封筒を出すと、連絡をつけられる電話
 番号を、時間帯別に書いてくれた。九時半から十一時:外来、十一時
 から十二時半:解剖室、十二時四十五分から一時半:小食堂、といった
 一日のスケジュールだった。>(p86)

 まだ福祉国家的であるのは、語られるだけで直接には登場しない
(ので、どうも絵空事っぽい印象になる)、少女の兄・サムの生活ぶり
にも窺われる。

 サムはやりたいことが見つからず(見つけたいという欲望も見えない)、
大学も何となく中退して__

<両親の家にいすわることに心底満足しているようで、昼日なかまで
 ベッドにもぐってい、ポピュラーミュージックのレコードをかけ、
 そしてたまたま知りあった女の子と手軽に恋愛をすませるという
 具合だった。
 [略]
 夫妻は、自分で生活をするようにとの最後の望みを託し、家の最上階
 を独立したフラットに改造したが、サムは自分の新しい城に誇りも
 興味も持たず、片付けもそうじもしないで、汚れて荒れるにまかせ、
 [略]
 近所のカバブ[略]ハウスで持ち帰り用の料理を買ってきては、以前と
 同じように両親のテレビの前にいすわって食べるのが好きで[略]>
(p62-63)

__日本での引きこもりとはちがうようだ。引け目を感じないで
いられるので、鬱屈の挙句、家庭内暴力を振るったりはしない。
個人主義的でいられるって、いいじゃないかと、こちら側では思う
けれど。

 "ポピュラーミュージックのレコード"という大まかな言い方を見ると、
シーリア・フレムリンは(クラシックはどうか知らないが)音の知識が
少ないのではないかしら。
 妊娠に気がついた、1980年ころの14歳の少女が、自分の赤ちゃんの
将来を想像するときの描写__

<まさにこの瞬間、ニッカーのウエストゴムのほんの一インチか二インチ
 下では、細胞の最初のかたまりが集まりつつある。シェークスピアを
 読み、ベートーベンやエルヴィス・プレスリーを聞き、「ウェストミン
 スター橋の上で」を暗記するのに備えて。>(p31-32)

__1980年の作品で、ビートルズですらなく、エルヴィス・プレスリー?!
編集者もポップスやロックに疎くて、時代考証が甘くなったのかしら。
 お兄さんのサムが、ヒッチハイクしてインドに行っているという設定も、
歴史物ではない現在時ミステリとしては、やや時代感覚的なズレを感じるが。

 少女期の憧れや期待、自意識の在りようなど、よく出ているけれど、
ミステリとしても風俗小説としても、『夜明け前の時』の方がすばらしい。
 (2016年8月27日/2016年8月29日)


     (シーリア・フレムリン/直良和美 訳『泣き声は聞こえない』
     創元推理文庫 1991初 J)




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by byogakudo | 2017-09-07 16:20 | 読書ノート | Comments(0)


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