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猫額洞の日々

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2018年 02月 07日

筒井清忠『帝都復興の時代 関東大震災以後』読了

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 写真は昨日のアカトラさん


 『第一章 関東大震災後の政治と後藤新平・復興院の挫折』では、
後藤新平が復興院の有能な役人たちを率いて町を造り直そうとした
のに、政治家連中の紛争に巻きこまれて不十分な結果に終わったと
いう神話、が真っ向から否定される。

 最初に、後藤新平が政治家としてヘマだったことが人事争い史として
記述されるが、ここらは基礎知識がなさ過ぎて、よく理解できなかった。

  『第一章 3、第二次山本権兵衛内閣の成立 (4)世論の動向』に
各新聞での、非・政党出自の山本権兵衛内閣の評価が出ているが、

< 政党に基礎を持たない超然内閣であったのにもかかわらず、山本
 内閣は意外にも期待されたのである。また、日本の新聞はいつも、
 既存の政党の批判と新勢力の台頭への期待ばかりを言いつのっている
 ことがわかろう。議会政治は政党政治たらざるを得ず、従ってその
 発展はいかにして健全な政党を育成するかにかかっている、という
 ことへの認識が不足しているともいえよう。昭和前期に「新勢力」
 =陸軍が台頭しやすい環境を新聞が作っていたといえなくもない
 のである。>(p32-33)

__日本の近代は"より新しい"ことが"正しい"とされてきた歴史なので、
べつにジャーナリズムだけの責任ではないと思うが...ああ、しかしこの
論法では、
<昭和前期に「新勢力」=陸軍が台頭しやすい環境を新聞が作っていた
といえなくもない>
と記すのと同じように、一億総懺悔・論に行っちゃいそうだ。もっと細かに
考えないと...。

 有能な役人たちと信じてきた復興院は、『第一章 6、小括 (2)震災復興
について』の(2)によると、

<復興院は、計画のみに関わったのであり、実施に関わったのは内務省
 の外局となった復興局と東京市(東京に関しては)である。復興院が実施
 に関わったかのごとく言われることがあるが誤解である。>(p60-61)
そうである。

 当時の新聞記事が紹介されるが、寄合所帯の復興院では上から下まで、
汚職が流行る。土地取引で当然のようにマージンを乗せ、差額分は自分
たちで分け、花柳界で騒いだり、妙な新宗教を始める部下がいたり、疑獄
事件を調べていた検察の動きが途中で止ったりとか、戦前~戦中~戦後の
日本のまるで変らない風景が記される。

 しかし、こんな体たらくで、どうやって復興小学校や同潤会アパートが
できたのだろう? 不思議である。ひとえに、復興局と東京市の役人たち
の奮闘努力の成果なのか?

 『第三章 「天譴論」から「享楽化」・「大衆化」へ 関東大震災後の社会
意識の変化』では、小説やルポルタージュ、評論、流行歌の歌詞などから
風俗や意識の変化を見ようとする。

 夢野久作の『東京人の堕落時代』からの引用の後、

<第一次世界大戦後に起きた「自由尊重主義」という意味での「平民化」
 が「放縦」を招き、大震災がそうした傾向を大きく促進した、と夢野は
 指摘し批判するのである。
  [略]日本では、どうして「自由尊重主義」は「放縦」となりがちなのかを
 考えたほうが、夢野の指摘を生産的に生かすことになろう。>
(p172『第三章 4、一・二年後の「享楽化」「退廃化」 (1)「「享楽化」
「退廃化」現象の現実 f.「不良少年少女」)

__という件り、とくに、
<日本では、どうして「自由尊重主義」は「放縦」となりがちなのか>という
認識に引っかかる。この言説は、"公"意識による"私"への制限が前提に在る
のではないか。あるいは、"私"は永遠に"公"によって啓蒙さるべき未熟な
存在である、という認識。
 先日「東京新聞」夕刊で見た篠田桃紅の「あたくしは、あたくし」という
インタヴュー記事を思い出した。

<女学校では、制服に抵抗した。[略]
 「個性という言葉なんて、使われなかった。わがままと言われましたよ。
 けれど、あたくしは、あたくしに似合うものをと思っていただけ」>
(東京新聞 2018年2月3日・夕刊)


     (筒井清忠『帝都復興の時代 関東大震災以後』
     中公文庫 2017初 帯 J)





呪 亜屁沈臓/呪 汚池腐裏子/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐・夷蛮禍/

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by byogakudo | 2018-02-07 22:06 | 読書ノート | Comments(0)


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