猫額洞の日々

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2006年 04月 07日

「殺人鬼」

(浜尾四郎 春陽文庫 76年3刷)を昨夜から。31年発表の新聞連載作品だそうである。
頭の中をジャズ・エイジの尖端都市・東京に切換えて読もう。

 語り手(ワトスン役)は有閑階級の30代の男、名探偵はワトスン氏と旧制高校の
同期、検事出身の私立探偵。後にブルジョア家庭で殺人事件が起きると、もう一人
名探偵が登場する。

 名探偵・藤枝真太郎とワトスン氏こと小川雅夫が銀ブラ中に会い、喫茶店で紅茶と
菓子(アップルパイであった)を前にお喋りを始める。いわく、若い女同士が
喫茶店のボックス席に着くと、まず8割は一列に並んで坐っていると、名探偵は
まるで考現学者みたような指摘をする。

 藤枝名探偵は若い女性からの依頼の手紙を小川氏に見せ、封筒と便箋が同じ洋紙で
高価な箱入りセットものを使用していることを教える。丸善製品、あるいは伊東屋、
またはどちらかで買った外国製であろうか?

 この頃は禁煙権が存在しなかったので、男たちはほぼ全員、シガレットをふかす。
小川氏はチェリーに火をつけ、藤枝探偵はエアーシップ、検事(もうブルジョア家庭の
夫人が毒殺されたので検事も登場)は朝日、藤枝探偵のとっておきはスリーキャッスル
で、「ダンヒルライターを巧みに用いてそれに火をつけ」るのである。

 夫人が殺された富豪の屋敷の室内描写もいい。階段の壁にルーベンスの「三美神」
(複製写真である)、廊下にゴッホ(これも額装してあるが複製写真であろう)。

 「金持ちにしちゃめずらしい趣味だね」と名探偵が感想を述べるが、主人の書斎の
本は、<カーネギーの伝記だとか、大倉男(注: 男爵)の言説だとかいうものばかり。
そうでなければ、予約で売りつけられたらしい、二、三十円のバカ値のついている
出版物ばかりでうずめられ、それも、多分読んだことはないのだろう、いかにも
きちんと並べられていた。
 さっき廊下で見た美術趣味などは全然ここには感じられない。>と、小川氏も
訝しがっている。
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by byogakudo | 2006-04-07 20:34 | 読書ノート | Comments(0)


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