2006年 11月 13日

「雷の季節の終わりに」読了

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 (写真はクリックすると拡大します。)

 店で最初の頁に目を通したら相変わらず文体が素敵なので、クリスピンではなく
恒川光太郎になった。
 「夜市」と同じ、異界と現世との交流の物語。語り手はかつて異界に暮らした
現世出自の青年だ。異界で姉?と過ごしたこども時代を回想する。
 ここらはとても良かったのだけれど、『第四章 <賢也> 暴力』あたりから
少し困ったことになってきた。

 「夜市」の哀しくうつくしい郷愁性にばかり浸っていてはいけないと
考えたのかも知れない。穩(おん)と呼ばれる、かなり無垢で桃源郷的な異界は
じつは現実のこの世と地続きで、見えない薄い皮膜に包まれて存在している。
 けっして現実逃避の物語ではないと言いたかったのかも知れないが、現世での
物語のテーマはこどもの間のいじめと児童虐待である。なんともアクチュアルだ。
その描き方がどうも性急で生々しく、異界描写とうまく交流していない感じだ。
(異界にも暴力は存在しているが)現世と異界との距離が近すぎて、現世描写が
異界の存在を裏打ちすることに成功していない。

 現世でのシーンをもっと距離をもって描く訳には行かなかったのだろうか。
なにか作者の切迫感だけ伝わり、小説世界として成立していないと思う。
問題意識は理解するが、小説で展開するにはもっとふくらみや遠近感が
必要ではなかろうか。

 ごたごたした感想ばかり書いてる。違和感をうまく言語化できない・・・。

 同じテーマでもう一度トライする価値のある作品ではある。悪や悪意の
存在について、もっと言葉が遠くまで届くことができたら、彼の代表作になる
可能性だってある。相変わらず、わたしは恒川光太郎に期待している。
                   (恒川光太郎 角川書店 06初帯)
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by byogakudo | 2006-11-13 13:00 | 読書ノート | Comments(0)


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