2007年 03月 22日

「メグレ間違う」読了

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 (写真はクリックすると拡大します。)

 原題は"Maigret se trompe"。だから日本語訳の「メグレ間違う」で
間違いはないのだろうが、でもメグレは何を間違えたんだろう。

 終りの方で、女をかこっていた天才的脳外科医とメグレが対決する。ふたり
とも人間観察者として同じ冷静な眼差しをもつ。但しメグレの観察眼の基層には
人間への愛があるが、外科医は非人間的なまでに愛を欠いている。

 女を囲うきっかけは、病院に運び込まれた彼女を手術して救ったから。
愛はないが征服欲過剰な男である。(男性原理に忠実とも言える。)
 大手術であればあるほどファイトを燃やし、手術直後にはいつも、手近で
もめ事にならない女を貪りつくす。(わかりやすい奴だ。)
 女たちは英雄崇拝的に彼に惹かれるか、反対に彼の生き方を全否定することに
熱中するという、困った存在である。
 貧しい農家の出身で、自分と同階級かそれ以下の女にしか欲情できない。
逆転して、上流の女ばかり狙うパターンもありえるが、それをやるとキャリアに
傷がつく可能性もあるから、冷静なる上昇志向者としては、やらないのだろう。

 そんな脳外科医に対して、警視メグレは何も言うことができない。彼は殺人者
ではないから、警官として裁く訳には行かない。
 すべての人々をモノ視する脳外科医と、愛をもって眺めるメグレとは、観察者と
して同じ地平に立ち、反対方向を向く。そのディレンマが「メグレ間違う」という
ことなのだろうか。
 弱者が強者の立場に立ったとき、弱者をより強烈に支配しようとするのは、
よく理解できる・・・。
     (ジョルジュ・シムノン 河出文庫 00初)
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by byogakudo | 2007-03-22 14:04 | 読書ノート | Comments(0)


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