猫額洞の日々

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2007年 06月 17日

「虚無への供物」読了

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 (写真はクリックすると拡大します。)

 第三章35 『殺人日暦』p374より
<何を協議しようというのか、承知はしたものの、地理痴の亜利夫には、
 一度行っただけの牟礼田の家など、道順もろくに思い出せない。>

 ここにも「地理音痴」ではなく、正しく「地理痴」と用いられている
好例があった。澁澤龍彦のエッセイに先立つこと何年であろう。__と
書きたかったのである。
 澁澤のエッセイでは「方向音痴という言葉は変だ。方向痴であるべき
だろう」と記されていた筈なのだが、どのエッセイだったのか、それが
思い出せなくて困っている。そこまできちんと書いてこそ、重箱の隅
探検家の面目も立とうというのにさ。なんてことだ、情けない。

 おそるおそる読んだ「虚無への供物」だが、連作短篇集とは異なり
あまり男の(ホモセクシュアルの男の)ナルシシズムに悩まされること
なく堪能できた。次々に推理の仮説が立てられては壊される長篇なので、
ナルシシズムに耽溺する暇がなかったってことだろうか?
 女のナルシシズムには寛容なのに、ホモセクシュアルな男のナルシシズム
には苦手意識が先立つのはなぜなのかと、2-3日考えていて解らない。Sに
訊けばすぐさま何やらの解答を与えてくれそうだけれど、女には形而上学が
存在しないとでも片付けられるのだろうか。

 中井英夫が愛し、また同時に彼を形作った世界__探偵小説、シャンソン、
街、植物ことに薔薇__それらがたっぷりと鏤められた、限りなく探偵小説に
近づいては遠ざかる物語という印象である。読んでよかった。
     (中井英夫 講談社文庫 83年19刷)
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by byogakudo | 2007-06-17 16:15 | 読書ノート | Comments(0)


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