2007年 07月 15日

「メグレと口の固い証人たち」読了

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 (写真はクリックすると拡大します。)

 メグレ・シリーズはいいなあ。河出文庫で、また全巻出してくれない
だろうか。どれも78分くらいで終る映画みたいな中編なので、もっと
読みたい思いに駆られる。

 昨日のカサック「連鎖反応」にも、悩めるジルベールが愛人・モニクと
言い争う場面で、
< 「(略)フィアンセは精神のため、あたしはそのほかのことのため。(略)
 そのとおりなんでしょう?」
  「ちがう、とんでもない!」と、彼女の言うとおりだ、自分はまったく
 下劣な人間だと考えながら、ジルベールは言った。(略)彼はシムノンの
 小説中の人物に自分を比べてみたが、まるで心の励ましにならなかった。>
(p178)なぞと引き合いに出される、明るくないメグレ・ワールドが心地よい。

 「メグレと口の固い証人たち」では、そもそも季節も天候も暗い。万霊祭の
翌日、11月の陰鬱な雨の月曜日、出がけのメグレは夫人からマフラーを勧め
られて、老人くささに気が重くなる。待っていたバスが来れば、デッキのついて
ない型で、パイプが吸えない。定年まであと二年の、わびしさに襲われる
メグレ警視という導入部からして、すばらしい。担当する事件も、衰亡して行く
かつてのブルジョア一家に起きた殺人事件である。

 終って行くかなしさと静かなあきらめと、それでも終焉に抵抗する人間の
意志のあっぱれさとが混じり合う。万霊祭に墓地に捧げられた菊が雨に打たれ
かすかな腐臭が漂って来るような、そんな作品だ。
   (ジュルジュ・シムノン 河出文庫 00新装初)
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by byogakudo | 2007-07-15 16:25 | 読書ノート | Comments(0)


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