猫額洞の日々

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2007年 10月 10日

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」

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 Sが昨夕読み終え、手渡される。部屋に戻り夕飯をすませるや否や
読み出した。ベッドに入っても読み続け、2:30am頃読了。次に読む
ひとが待っているわけでもないのに、何故そう急ぐ?__物語の速度
に読む速度が合致してしまって、こうなった。

 一昨日の「最後から二番目の真実」も面白かったが、ストーリーの
深度・出来のよさからいえば、断然「パーマー・エルドリッチの三つの
聖痕」である。書き飛ばし期のディック作品なのだろうが、宗教オタク度
はすでに高まりを見せる。同じように罪の意識に悩まされ、倫理的に
正しい行動をとろうとすると逡巡を繰り返し、結果的に行動を拒否する
いつものディック・ヒーローが登場するとはいえ、人物像の描写の深さと
物語の構造力とが相俟って、感動的だ。

 1964年に書かれているが、やりきれないほど今のグローバリズム
覆われた地球に似た、近未来の地球と宇宙植民地が舞台である。
 地上にも宇宙の植民地にも現実逃避薬・キャンD(ディー)がはびこる。
そこへ新たに合法性を謳う薬・チューZ(ズィー)が投入され、シェアを
奪おうとするのであるが、困ったことに、チューZで得られる幻覚世界は
すべて発売者、パーマー・エルドリッチの創り出した世界であり、薬物を
試みた人間はすべて、自らの裡にパーマー・エルドリッチが棲んでいる
ことに気づかされる。

 神は永遠の生命を約束する。しかし、人間であるパーマー・エルド
リッチは永遠の生命を引き渡せると豪語し、遍く存在する神に
代わって、人間界に偏在しようと欲望する。薬物摂取をやめても
フラッシュバックは続き、摂取者は永遠のパーマー・エルドリッチ宇宙
から逃れるすべはない。救済は存在しない。

 これほどのダイナミズムで世界の破滅と救済への意志が描かれた
こともあったのに。

     (フィリップ・K・ディック ハヤカワ文庫94年7刷)
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by byogakudo | 2007-10-10 13:21 | 読書ノート | Comments(0)


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