わたくしとしたことが、グレアム・グリーン「事件の核心」(伊藤整訳
新潮文庫 76年19刷)をまだ読んでいる。まあ、速読すべき本では全く
ないのだが。
第二次大戦中、ドイツが猛攻中だった頃。アフリカの英領植民地が
舞台であるが、風景にふさわしくない、ボンド街やジェイムズ街等と
名付けられた街の描写からして気を重くさせる、グレアム・グリーンな
世界。暗くっていい。
現地人やアラブ系とは隔絶された狭い白人たちの社会なのに、それぞれ
小さな派閥に分かれ、表立ってはいないが諍いが感じられる。
主人公はうだつの上がらない警察副署長。十五年の植民地勤めのおかげで
白人たちとの付き合い以外に、他民族と接触交渉せざるを得ない立場にいる。
手を汚さないではすまされない立場というのが、とても人間的である。
彼の力の及ぶ範囲で、できるだけ公平平等に法を執行しようとすれば
するほど陰口をきかれる。これもありがちだ。そして、かなり清廉潔白な
彼がある日、小さな汚職に手を染める。
ますます陰々滅々となりそうで、今夜も愉しみ。