2007年 10月 28日

「旋風喜平次捕物捌き」読了

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 「銀座旋風児」ならぬ「深川旋風児・旋風喜平次(つむじ・きへいじ)」
初登場である。作者は、これまた初登場、1926年生まれの驚異の新人
時代小説作家・小林力(こばやし・りき)。当店のお客さまでもあり、4月
7日付けブログに感想文を記した「守護天使」の作者・上村佑の父上。
なんだかすごい。

 さて、時代小説なるものを、岡本綺堂・久生十蘭・都筑道夫しか
読んだことがない__山田風太郎はSFだと思っている__私が、感想
なぞ述べて信憑性があるものかどうか。ここは江戸ものに強い伊呂波
文庫さんに伺いたいところだが、時代小説にうとい人間が読んでも
愉しかった。門外漢が読んでさえ、資料や古地図がしっかり頭に入って
いると感じられる安定感である。

 一例を挙げれば、せっかちで強情な性格なので本名・辻をもじって
「旋風(つむじ)」とあだ名される若い(28歳!)定町廻り同心・辻喜平次
の捜査方法は、ともかく現場に急行する。そのためにはお金に糸目を
つけず、水の街・江戸の水運を活用して猪牙舟を飛ばす。猪牙舟の船宿も
駕篭屋も、ほぼ専用・専任状態である。
 奉行所のお給料だけで、どうやって賄っているのだろう? よほど
お家が内福なのかと考えていたら、これもすぐ後に答えが書かれていた。
 
 古地図を参照しながら読むと、捜査ルートが解ってもっと面白いだろう。
移動の順序はいつも、道中づけタッチで丁寧に記されている。

 時代小説ファンでなくとも愉しめるのは、連作短篇小説としての
骨子が確実であるからで、これはむしろ江戸を舞台にした警察小説と
言えよう。

 全4章から成るが、第1章でこれからの活躍が見込まれるメンバーは
全員揃い、最終章では若くして定町廻りになった経緯も明らかになる。
しかも、幼馴染の美女との恋が実るエンディングの書きっぷりが
泣かせる。
 男の「少年願望」「少年ナルシシズム」には常に、厳しい眼差しを
投げかけてきたわたくしであるが、これには素直に頷いた。鬼の目にも
急所があったか。

 どれも後味がよくヴァラエティに富む連作なので、ぜひシリーズ化を
お願いしたい。
 「朝日の記者は文章が上手い」という伝説が真実であることが、ここに
証明されている。
     (小林力 学研M文庫 07初帯)
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by byogakudo | 2007-10-28 13:35 | 読書ノート | Comments(0)


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